Q. 繰上返済は得?
A. 利息だけを見れば得です。しかし、生活防衛資金や教育費まで使って繰上返済するのは得とは限りません。
繰上返済をすると元金が減り、その後に支払う利息を確実に減らせます。
ただし、住宅ローンの金利が低い、住宅ローン控除を受けている、子どもの大学進学が近い、手元資金が少ないという家庭では、急いで返さない方が安全な場合があります。
私なら、次の順番で判断します。
- 生活防衛資金を確保する
- 5年以内に必要な教育費・車・修繕費を確保する
- 住宅ローン控除への影響を確認する
- 借入金利と運用利回りを比較する
- 70歳前後の完済計画を確認する
- 余った資金だけを繰上返済する
「借金は早く返した方がよい」という感情だけでは決めません。
繰上返済とは?
繰上返済とは、毎月の返済とは別に住宅ローンの元金を前倒しで返すことです。
返済した元金に対しては、その後の利息がかからなくなるため、総返済額を減らせます。
繰上返済には2つの方法があります。
| 方法 | 内容 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 期間短縮型 | 毎月返済額を変えず、完済時期を早める | 利息を大きく減らしたい人 |
| 返済額軽減型 | 返済期間を変えず、毎月返済額を下げる | 毎月の家計を楽にしたい人 |
住宅金融支援機構も、繰上返済には返済期間を短縮する方法と、毎月返済額を減らす方法があると案内しています。住宅金融支援機構の繰上返済案内
どちらの方法が得?
利息軽減効果を優先するなら、一般的には期間短縮型の方が有利です。
| 比較項目 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
|---|---|---|
| 毎月返済額 | 原則変わらない | 下がる |
| 完済時期 | 早くなる | 原則変わらない |
| 利息軽減効果 | 大きい | 比較的小さい |
| 老後のローン対策 | 効果が高い | 効果は限定的 |
| 毎月の家計改善 | 変わらない | 改善する |
ただし、教育費が増える、収入が減る、定年後も返済が残るなど、毎月の支払いを下げる必要がある家庭には返済額軽減型が適しています。
「どちらが得か」ではなく、繰上返済の目的に合わせて選びます。
100万円を繰上返済するといくら得?
借入額3,000万円、返済期間35年、金利年1.5%、元利均等返済、ボーナス払いなしで考えます。
当初の毎月返済額は、概算で約9万2,000円です。
返済開始から5年後に100万円を期間短縮型で繰上返済した場合、条件によって異なりますが、返済期間を約1年前後短縮し、数十万円程度の利息を減らせる可能性があります。
重要なのは、同じ100万円でも、繰上返済する時期によって効果が変わることです。
| 繰上返済の時期 | 利息軽減効果 |
|---|---|
| 返済開始直後 | 大きい |
| 返済開始から10年後 | 徐々に小さくなる |
| 完済直前 | 小さい |
住宅ローンは返済初期ほど利息の割合が大きいため、早い時期の繰上返済ほど利息軽減効果が高くなります。
ただし、効果が大きいからといって、新築直後に現金を使い切ってはいけません。
金利が高いほど効果は大きい
100万円を繰上返済したときの効果は、住宅ローン金利によって変わります。
| 借入金利 | 繰上返済の考え方 |
|---|---|
| 年0.5% | 利息軽減効果は小さい |
| 年1.0% | 手元資金との比較が必要 |
| 年1.5% | 完済年齢によって検討 |
| 年2.0% | 繰上返済効果が高まる |
| 年3.0%以上 | 優先度はさらに高くなる |
繰上返済は、住宅ローン金利と同程度の利回りを、元本変動リスクなしで得る行為とも考えられます。
年3%の住宅ローンを返せば、その元金に対する今後の年3%相当の利息負担を避けられます。
一方、金利年0.5%の住宅ローンなら、現金を失ってまで急いで返すべきか慎重に考えます。
住宅ローン控除中は待った方がよい?
住宅ローン控除の適用を受けている場合、繰上返済によって年末残高が減ると、控除額も減る可能性があります。
住宅ローン控除額は、入居年や住宅性能、借入限度額、納税額などによって異なります。近年の制度では、一定の住宅について年末残高等の0.7%を基に計算する仕組みがあります。国税庁の住宅ローン控除案内
たとえば、控除対象となる年末残高を100万円減らすと、計算上の控除額は最大7,000円減る可能性があります。
ただし、必ず7,000円損をするわけではありません。
- 控除対象となる借入限度額を超えている
- 所得税・住民税から控除しきれていない
- 住宅ローン控除の残り期間が短い
- 繰上返済による利息軽減額の方が大きい
このような場合は、控除期間中でも繰上返済が有利になることがあります。
「控除率0.7%より金利が低いから返さない」と単純には決められません。実際に受けている控除額と、繰上返済で減る利息を比較します。
繰上返済で住宅ローン控除が受けられなくなることもある
期間短縮型の繰上返済では、残りの返済期間に注意が必要です。
国税庁は、繰上返済後の償還期間によって住宅ローン控除の要件を判定するとしています。
繰上返済によって、最初の返済から完済までの償還期間が10年未満になると、その年以後、住宅ローン控除を受けられなくなる場合があります。国税庁「繰上返済等をした場合の償還期間」
控除期間中に期間短縮型を利用する場合は、次の点を金融機関や税務署へ確認してください。
- 繰上返済後の償還期間
- 住宅ローン控除の残り期間
- 年末残高への影響
- 実際に受けられる控除額
繰上返済しない方がよい人
次のいずれかに該当するなら、私は急いで繰上返済しません。
生活防衛資金が足りない
住宅購入後も、生活維持費の6か月分は現金で残したいところです。
自営業、歩合給、片働き、収入変動が大きい家庭なら、12か月分を検討します。
| 毎月の生活維持費 | 6か月分 | 12か月分 |
|---|---|---|
| 25万円 | 150万円 | 300万円 |
| 30万円 | 180万円 | 360万円 |
| 35万円 | 210万円 | 420万円 |
預貯金300万円の家庭が200万円を繰上返済し、残り100万円になるのは危険です。
病気、失業、車の故障、住宅設備の交換が重なれば、新たな借金が必要になる可能性があります。
子どもの大学進学が近い
住宅ローンは低金利で借りられても、教育費が足りなくなれば奨学金や教育ローンを利用することになります。
低金利の住宅ローンを返すために現金を減らし、後から高い金利で教育資金を借りるのでは、家計全体で得になりません。
大学進学まで5年以内なら、必要な教育費を先に現金で確保します。
車の買い替えが近い
山梨県では車が生活必需品となる家庭も多くあります。
2年後に300万円の車を買う予定があるのに、300万円を繰上返済すれば、今度はカーローンを借りる可能性があります。
住宅ローンよりカーローンの方が高金利になるケースが多いため、家計全体では損になることがあります。
住宅の修繕時期が近い
築10年を超えると、給湯器、エアコン、外壁、屋根などの修繕・交換が近づきます。
| 修繕項目 | 費用目安 |
|---|---|
| 給湯器・エコキュート | 30万円~70万円 |
| エアコン交換 | 10万円~30万円以上 |
| 外壁塗装 | 80万円~150万円以上 |
| 屋根メンテナンス | 40万円~300万円 |
| 太陽光関連設備 | 数十万円以上の場合あり |
繰上返済後に修繕ローンを借りるくらいなら、先に修繕費を確保します。
団信の保障を重視したい
団体信用生命保険に加入している場合、死亡や所定の高度障害、疾病保障の条件に該当すると、住宅ローン残高が保険で返済される可能性があります。
繰上返済したお金は戻りません。
たとえば、500万円を繰上返済した直後に団信が適用されても、先に返した500万円が家族へ返還されるわけではありません。
健康状態や団信の保障内容によっては、現金を残す判断にも合理性があります。
繰上返済した方がよい人
次の条件を満たす家庭では、繰上返済の効果が高くなります。
- 生活防衛資金を十分に確保している
- 教育費を別に準備できている
- 車や修繕の予定資金も確保している
- 住宅ローン金利が比較的高い
- 住宅ローン控除が終了している
- 退職後まで返済が残る
- 変動金利の上昇リスクを下げたい
- 預金として置いているだけの余裕資金がある
- 繰上返済手数料がかからない
特に、完済年齢が75歳、80歳になる家庭は、退職前に期間短縮型の繰上返済を検討します。
利息を減らすこと以上に、年金生活へ入る前に住宅ローンを終わらせる効果が重要です。
退職金で一括返済は危険
「退職時に残っている住宅ローンは、退職金で返せばよい」という計画は勧めません。
退職金には、住宅ローン以外の役割があります。
- 65歳以降の生活費不足
- 医療費
- 介護費
- 車の買い替え
- 自宅の大規模修繕
- 配偶者の生活費
- 子どもへの支援
住宅ローンを完済しても、現金がほとんど残らなければ安全とはいえません。
私なら、退職金を自動的に住宅ローンへ充当せず、90歳までの家計を計算したうえで返済額を決めます。
貯金と投資、どちらを優先する?
繰上返済、貯金、NISAなどの資産形成は、目的が違います。
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 繰上返済 | 利息負担を確実に減らせる | 現金を取り戻せない |
| 預貯金 | いつでも使える | 大きな利回りは期待しにくい |
| 投資 | 長期的な資産成長を期待できる | 元本割れする可能性 |
| iDeCo | 税制メリットがある | 原則60歳まで引き出せない |
住宅ローン金利年1%を繰上返済すれば、将来の年1%相当の利息を避けられます。
一方、投資で年3%や5%を目指せても、その利益は保証されません。相場が下落すれば元本割れします。
「投資利回りの方が高いはず」と決めつけず、現金、繰上返済、投資へ分散します。
私なら50万円単位で実行する
私なら余裕資金をすべて一度に返済せず、専用口座へ積み立てます。
たとえば、高断熱・高気密住宅や太陽光発電によって、以前の住まいより年間25万円の光熱費を削減できたとします。
その削減額を生活費へ混ぜず、繰上返済専用口座へ入れます。
| 年数 | 専用口座残高 |
|---|---|
| 1年 | 25万円 |
| 2年 | 50万円 |
| 4年 | 100万円 |
| 8年 | 200万円 |
50万円たまるたびに、生活防衛資金、教育費、修繕予定を確認します。
問題がなければ期間短縮型で繰上返済し、支出予定があれば現金を残します。
この方法なら、家計の安全性を守りながら完済時期を早められます。
繰上返済前のチェックリスト
実行前に、次の項目を確認してください。
- 繰上返済後も生活維持費6~12か月分が残るか
- 5年以内の教育費を確保しているか
- 車の買い替え資金があるか
- 給湯器・外壁・屋根の修繕費があるか
- 住宅ローン控除は何年残っているか
- 控除額はいくら減るか
- 返済期間が10年未満にならないか
- 繰上返済手数料はいくらか
- 期間短縮型と返済額軽減型の効果を比較したか
- 70歳前後で完済できるか
住宅金融支援機構の返済方法変更シミュレーションでは、繰上返済後の返済額や返済期間を試算できます。実際の金額は、借入先金融機関でも確認してください。
俺流結論
繰上返済は、利息だけを見れば得です。
しかし、低金利の住宅ローンを急いで返し、教育費、車、修繕費、生活防衛資金が不足したら、家計全体では損になります。
私は「余ったら全部返す」という方法は選びません。
先に生活防衛資金を6~12か月分確保し、教育費、車、住宅修繕、老後資金を守ります。そのうえで残った余裕資金を、50万円単位で期間短縮型の繰上返済へ回します。
繰上返済の目的は、預金残高を減らして安心感を得ることではありません。
70歳前後までに住宅ローンを完済しながら、90歳まで家族の生活を守ることです。
「住宅ローン残高」と「手元資金」の両方を見て判断する。それが、本当に得をする繰上返済です。










