設計事務所が関わっていれば、施工会社が倒産しても安心?
A. 設計事務所が関わっていても、施工会社の倒産による金銭的損失までは防げません。ただし、施主が設計事務所と直接契約し、図面・検査記録・出来高を管理していれば、工事を他社へ引き継ぎやすくなります。
設計事務所が入っている住宅では、
施工会社が倒産しても、設計事務所が続きを手配してくれる
図面を持っているから、そのまま別の会社で建てられる
建築士が工事を監理しているから、お金も安全
と思われることがあります。
しかし、設計事務所と施工会社では、契約上の役割が違います。
- 設計事務所:設計図書の作成、申請、工事監理
- 施工会社:材料・職人の手配、施工、工事完成、引き渡し
- 完成保証会社:前払金損害や増嵩工事費用を約款の範囲で保証
設計事務所は、原則として施工会社の倒産損失を補償する会社ではありません。
「工事監理」と「現場監督」は違う
住宅業界では、工事監理と現場監督が混同されがちです。
工事監理を行う建築士の主な役割は、工事が設計図書どおりに行われているかを照合・確認し、その結果を建築主へ報告することです。
国土交通省の工事監理ガイドラインも、工事監理について「工事と設計図書との照合及び確認」の方法を示しています。国土交通省「工事監理ガイドライン」
一方、施工会社の現場監督は、主に次の業務を行います。
- 職人の手配
- 資材の発注
- 工程管理
- 品質管理
- 安全管理
- 予算管理
- 下請業者との調整
施工会社が倒産すると、職人への発注、資材納入、工事代金の支払い、現場管理が止まります。
設計事務所が工事監理をしていても、施工会社の代わりに職人へ工事を発注し、材料費や工事費を負担して家を完成させる義務があるとは限りません。
設計事務所の関わり方には3種類ある
「設計事務所が関わっている」という説明だけでは、安全性を判断できません。
誰が設計事務所へ仕事を依頼しているかによって、倒産後の対応が変わります。
1.施工会社の社内設計部門
施工会社の社員である建築士が設計・工事監理を行う形です。
この場合、施工会社が倒産すると、設計担当者も会社の業務として対応できなくなる可能性があります。
- 社内サーバーへ入れない
- CADデータを取り出せない
- 担当建築士と連絡が取れない
- 監理記録や施工写真を回収できない
- 確認申請の変更手続きが止まる
「建築士が担当している」ことと、「独立した設計事務所が施主を守っている」ことは別です。
2.施工会社が外部設計事務所へ委託
施工会社が外部の設計事務所へ設計や申請を発注する形です。
設計事務所が別法人でも、契約相手が施工会社であれば、施主が直接業務を依頼しているとは限りません。
施工会社が設計料を支払っていなければ、設計事務所がその後の業務を継続しない可能性もあります。
この場合は、次の点を確認してください。
- 施主と設計事務所の直接契約があるか
- 設計事務所へ報酬が支払い済みか
- 図面を施主が使用できるか
- 施工会社倒産後も工事監理を継続するか
- 別会社への引き継ぎ業務は契約に含まれるか
3.施主が独立した設計事務所と直接契約
施主が設計事務所と設計・工事監理契約を結び、施工会社とは別に工事請負契約を結ぶ形です。
倒産対策として最も有効なのは、この形です。
施工会社が倒産しても、設計事務所との契約が継続していれば、次の支援を受けられる可能性があります。
- 設計図書や構造計算書の確保
- 現場の施工状況の確認
- 工事出来高の整理
- 未施工部分の洗い出し
- 引き継ぎ会社へ渡す資料の整理
- 引き継ぎ候補会社の紹介
- 見積内容の比較
- 確認申請上の施工者変更手続き
- 引き継ぎ後の工事監理
ただし、これらの業務が設計監理契約に含まれているかは別問題です。
施工会社の倒産対応や、別会社への引き継ぎ支援は、通常業務とは別の追加業務として費用が発生することもあります。
設計事務所が守れるもの、守れないもの
| 項目 | 設計事務所による支援 |
|---|---|
| 設計図面の確保 | 対応できる可能性が高い |
| 構造計算書の確保 | 契約・保管状況による |
| 施工状況の確認 | 工事監理契約の範囲による |
| 工事出来高の確認 | 契約に含めれば対応可能 |
| 引き継ぎ会社の紹介 | 可能だが引受け保証ではない |
| 確認申請の変更手続き | 対応可能な場合がある |
| 支払済み工事代金の返還 | 原則として負担しない |
| 引き継ぎによる追加工事費 | 原則として負担しない |
| 仮住まい・融資利息 | 原則として負担しない |
| 家を完成させる義務 | 別途契約がなければ負わない |
設計事務所は、工事再開に必要な技術情報を守る役割を果たせます。
しかし、施工会社へ支払い過ぎたお金や、工事引き継ぎで増えた費用を補償する役割ではありません。
2,200万円の家で施工会社が倒産した場合
次のケースを考えてみます。
- 工事請負金額:2,200万円
- 施工会社への支払済み金額:1,100万円
- 実際の工事出来高:800万円
- 工事進捗を超えた前払い:300万円
- 引き継ぎによる追加工事費:250万円
- 仮住まい・融資利息:60万円
施主の損失・追加負担は合計610万円になる可能性があります。
独立した設計事務所が図面、検査記録、変更履歴を保存していれば、現場調査や引き継ぎは進めやすくなります。
しかし、設計事務所が610万円を負担するわけではありません。
第三者の住宅完成保証がなければ、前払金損害や追加工事費が施主負担になる可能性があります。
設計事務所は引き継ぎの地図にはなりますが、追加費用を支払う財布ではありません。
設計事務所がいると倒産被害を減らせる理由
設計事務所が施工会社から独立し、適正に工事監理を行っていれば、倒産前の危険を早く発見できる可能性があります。
例えば、
- 工程より工事代金の支払いが先行している
- 現場に資材が入っていない
- 下請業者が頻繁に変わっている
- 設計図書どおりに施工されていない
- 中間検査を受けずに工事を進めている
- 施工写真や試験記録が提出されない
- 工期が遅れているのに追加支払いを求められる
といった状態です。
ただし、設計事務所に工事代金の出来高確認を依頼していなければ、支払い時期まで管理してもらえるとは限りません。
設計監理契約書に、
各工程の工事代金を支払う前に、設計事務所が工事出来高を確認し、建築主へ報告する
という業務を入れておくことが重要です。
設計・工事監理契約書で確認すべき10項目
設計事務所へ依頼する場合は、次の内容を契約前に確認してください。
- 施主と設計事務所が直接契約するのか
- 設計業務と工事監理業務の範囲
- 現場確認の回数とタイミング
- 工事監理報告書をいつ受け取れるか
- 工事出来高を支払い前に確認するか
- 施工写真や試験記録を誰が保管するか
- 図面・構造計算書を施主が使用できるか
- 施工会社倒産時の引き継ぎ支援を行うか
- 引き継ぎ支援に追加費用がかかるか
- 設計事務所自身が業務を継続できない場合の対応
建築士事務所は、設計や工事監理の種類、内容、期間、方法などを記載した書面を建築主へ交付することとされています。国土交通省「設計・工事監理に関する書面交付」
「設計監理一式」とだけ書かれた見積書ではなく、どの工程で何を確認するのかまで明確にしてください。
図面を設計事務所だけに保管させない
建築士事務所には、一定の設計図書や工事監理報告書を15年間保存する義務があります。国土交通省「建築士事務所の図書保存制度」
ただし、
設計事務所が保存しているから、施主は持っていなくても大丈夫
という意味ではありません。
設計事務所が廃業したり、担当者が退職したり、データの利用条件で争いになったりする可能性があります。
施主自身も、次の資料を工程ごとに受け取ってください。
- 工事請負契約書
- 設計・工事監理契約書
- 実施設計図
- 構造計算書
- 確認申請書・確認済証
- 仕様書
- 工事監理報告書
- 中間検査記録
- 瑕疵保険検査記録
- 施工写真
- 設計変更図
- 追加工事契約書
- 入金記録
紙だけでなく、全ページが読めるPDFでも保管します。
設計事務所へ聞くべき決定的な質問
契約前に、設計事務所へ次のように質問してください。
施工会社が建築途中で倒産した場合、御社は設計・工事監理契約を継続し、出来高の確定、図面の提供、施工会社変更の手続き、引き継ぎ工事の監理まで対応しますか。
さらに、
その業務は現在の設計監理料に含まれていますか。追加費用はいくらですか。
まで確認します。
「できる限り対応します」という回答ではなく、業務範囲と費用を契約書へ記載してもらうことが重要です。
設計事務所が関わっていても完成保証は必要
設計事務所と完成保証は、代わりになるものではありません。
- 設計事務所:図面・品質・工事監理・引き継ぎ支援
- 完成保証:前払金損害・増嵩工事費用への備え
- 瑕疵保険:完成後の構造・防水に関する瑕疵への備え
この3つを組み合わせることで、倒産時の被害を減らせます。
設計事務所がいることを理由に完成保証へ入らない会社があるなら、次のように質問してください。
設計事務所は、施工会社へ支払い過ぎた300万円と、引き継ぎで増えた250万円を補償してくれるのですか。
補償しないのであれば、完成保証の代わりにはなりません。
デザインハウス甲府の考え方
設計、構造計算、工事監理は、住宅の安全性を守るうえで欠かせません。
しかし、設計図面が正しくても、施工会社が倒産して工事が止まり、支払ったお金が戻らなければ、施主の生活は守れません。
そのためデザインハウス甲府では、
- 全棟で許容応力度計算
- 工事内容と性能の書面化
- 工程ごとの記録保存
- 工事進捗に合わせた支払い
- 全棟への完成保証
を重視しています。
設計事務所が関わっているかどうかだけで判断するのではなく、
図面は誰が持つのか。
出来高は誰が確認するのか。
施工会社が倒産したら誰が引き継ぐのか。
追加費用は誰が保証するのか。
この4点を契約前に確認してください。
設計事務所は、倒産後の工事再開を助ける存在です。しかし、倒産損失そのものを消してくれる存在ではありません。










