親の認知症に備え、建替え資金をあらかじめ「子どもの口座」に移しておく行為の税務上のリスク。
こんなご相談をいただきました
78歳の父名義の家を、父の預金を使って建て替える予定です。
今後、父が認知症になって預金を引き出せなくなることが心配です。判断能力があるうちに建て替え資金を子どもの口座へ移しておけば、必要なときに使えるのでしょうか。贈与税はかかりますか?
A. 親の預金を子どもの口座へ移すだけの方法はおすすめできません。贈与と判断される可能性があるだけでなく、親のお金なのか子どものお金なのか分からなくなり、相続時に大きなトラブルを招くからです。
子どもの口座へ移すと2つの解釈が生じる
親から子どもの口座へ2,000万円を振り込んだ場合、主に次の2つの解釈が考えられます。
子どもへ贈与した場合
親が「あげる」、子どもが「もらう」と合意し、子どもが自由に使える状態なら、原則として贈与です。
贈与税の基礎控除を超える部分について、子どもに贈与税がかかる可能性があります。
「将来の建て替えに使う予定だった」という理由だけで、贈与税がかからなくなるわけではありません。
子どもが預かっている場合
所有者は親のままで、子どもが建て替えの支払いを代行するだけなら、直ちに贈与とは限りません。
ただし、子ども名義の普通預金へ混在させると、本当に親の預金を預かっただけなのか、外部から判断しにくくなります。
口頭で「預けただけ」と説明しても、証拠がなければ税務署や他の相続人に認められるとは限りません。
「生活費だから非課税」は通用しない
親子間の通常必要な生活費には、贈与税がかからない場合があります。
しかし、必要な都度、直接生活費へ使うことが条件です。受け取った資金を預金したり、不動産の購入資金に充てたりした場合は、贈与税の対象となる可能性があります。贈与税がかからない財産の範囲
数千万円の建て替え資金を「親子の生活費」として子どもの口座へ移す方法は危険です。
子どもの口座で管理する5つの危険
贈与税以外にも、次のリスクがあります。
- 子どもの財産と混ざり、使途が分からなくなる
- 子どもの借金で口座を差し押さえられる
- 子どもの離婚時に財産関係でもめる
- 子どもが先に亡くなり、その相続財産と誤解される
- 他の兄弟から使い込みを疑われる
親のために善意で管理していても、通帳上は子どもの口座です。
特に現金で引き出して工事代金を支払うと、資金の流れを説明することが難しくなります。
預かる場合でも書類と記録が必要
やむを得ず子どもが管理を手伝う場合は、少なくとも次の対策が必要です。
- 親と子の間で財産管理委任契約を作成する
- 資金の所有者は親であると明記する
- 使用目的を建て替え費用などに限定する
- 子どもの生活費と完全に分けて管理する
- 振込記録、請求書、領収書を保存する
- 定期的に親や家族へ収支を報告する
- 残金を誰に返すか決めておく
ただし、こうした書類を作っても、親が認知症になった後に子どもがすべての契約を自由にできるとは限りません。
金融機関の代理人制度や委任状の扱いも、それぞれ異なります。
認知症になると建て替え契約が難しくなる
問題になるのは、預金の引き出しだけではありません。
建て替えには、次のような法律行為が伴います。
- 解体工事の契約
- 建築工事請負契約
- 住宅ローン契約
- 土地への抵当権設定
- 建物滅失登記
- 新築建物の登記
- 仮住まいの賃貸借契約
親に契約内容を理解して判断する能力がなければ、親名義の土地や資金に関する契約を、そのまま進めることは困難になります。
子どもが通帳と印鑑を持っているだけでは、親の代わりに不動産を処分したり、建築契約を結んだりする法的権限にはなりません。
家族信託を検討する方法もある
親に十分な判断能力があるうちなら、家族信託を利用して財産管理の方法を決めておく選択肢があります。
一例として、次のような設計が考えられます。
- 委託者:親
- 受託者:子ども
- 受益者:親
- 信託財産:建て替え予定地や建築資金
- 目的:親の住居確保と生活の安定
契約内容に建て替え、解体、工事代金の支払いなどを明確に定めておけば、親の判断能力が低下した後も、受託者である子どもが契約に従って管理できる可能性があります。
ただし、家族信託は契約内容によって権限や税務が変わります。「信託をすれば何でもできる」「相続税が安くなる」という制度ではありません。
司法書士や弁護士に、建て替えを前提とした契約書を作成してもらう必要があります。
成年後見制度を利用する場合
すでに親の判断能力が低下している場合は、家庭裁判所へ成年後見等の申立てを検討します。
成年後見人は、本人の財産を本人のために管理します。子どもが候補者になっても、必ず選任されるとは限らず、弁護士や司法書士などの専門職が選任されることもあります。成年後見制度の概要
また、成年後見人になれば親のお金を自由に使えるわけではありません。
建て替えが親本人の生活や安全のために必要か、費用が本人の資産に対して過大ではないかなどが問われます。子どものための新築や相続税対策を目的とした支出は、原則として認められにくくなります。
新居の名義にも注意する
親の資金で建て替えるのに、新しい建物を子ども名義にすると、今度は親から子どもへの贈与になる可能性があります。
基本は次のとおりです。
| 建築資金の負担者 | 建物の名義 |
|---|---|
| 親が全額負担 | 親名義 |
| 子どもが全額負担 | 子ども名義 |
| 親子で負担 | 出資割合に応じた共有名義 |
親の資金を子どもの口座から工事会社へ振り込んでも、資金の実質的な負担者が親なら、親の出資として整理する必要があります。
口座名義ではなく、資金の出所と建物の登記持分が重視されます。
デザインハウス甲府からのアドバイス
認知症対策として最も危険なのは、急いで親の預金を子どもの口座へ移し、「これで安心」と考えることです。
実際には、贈与税、使い込みの疑い、兄弟間の対立、建物名義の不一致など、新たな問題を生む可能性があります。
建て替えを予定しているなら、親に判断能力があるうちに、次の順序で進めてください。
- 建て替えの総額と時期を決める
- 土地・建物・預金の名義を確認する
- 親子の出資額と新居の持分を決める
- 税理士へ贈与税を確認する
- 司法書士や弁護士へ財産管理方法を相談する
- 家族信託や任意後見の必要性を判断する
通帳を移すことは認知症対策ではありません。親の意思、子どもの権限、資金の使途を法的な書面で残して初めて、建て替え資金を守る対策になります。










