Q. 本当に安全な借入額とは?
A. 収入減少、金利上昇、教育費の増加が起きても、70歳前後までに返せる金額です。
銀行の審査に通る金額は「借入可能額」です。
今の収入なら返済できそうな金額は「返済可能額」です。
そこからさらに、将来の悪い条件を加えても家計が破綻しない金額が「安全な借入額」です。
安全性を確認するには、最低でも次の4条件で試算します。
- 夫婦どちらかの収入が半分になる
- 住宅ローン金利が3%になる
- 子どもの大学進学が重なる
- 70歳前後までに完済する
通常時の月々返済額だけで借入額を決めてはいけません。
3つの借入額は違う
借入可能額
金融機関が融資できると判断した上限額です。
年収、年齢、勤続年数、他の借入、信用情報、返済負担率などから計算します。
返済可能額
現在の収入と生活費から、毎月返せそうな金額です。
しかし、将来の収入減少や教育費増加が入っていない場合があります。
安全な借入額
収入が減り、金利が上がり、教育費や修繕費が増えても、家族の生活を守れる金額です。
家づくりで基準にすべきなのは、借入可能額ではなく安全な借入額です。
年収倍率では安全額を決められない
住宅ローンの目安として、
「年収の5倍まで」
「年収の7倍でも借りられる」
という表現があります。
しかし、同じ年収600万円でも家庭の支出は違います。
- 子どもがいない
- 子どもが三人いる
- 車が一台
- 車が二台必要
- 大学費用を準備済み
- 教育資金がほとんどない
- 預金が1,000万円ある
- 建築後の預金が100万円になる
年収だけで安全な借入額を決めることはできません。
年収倍率は、計算後の確認に使う数字です。
安全な借入額を出す順番
住宅ローン額は、次の順番で計算します。
- 毎月の手取り収入を確認する
- 現在の生活費を確認する
- 教育費を先に確保する
- 車の買い替え費用を積み立てる
- 住宅修繕費を積み立てる
- 老後資金を確保する
- 生活防衛資金を残す
- 固定資産税と保険料を計算する
- 残った金額を住宅ローン返済額にする
- その返済額から借入額を逆算する
住宅会社から提示された家の価格に合わせて、返済期間を延ばす方法ではありません。
家族に必要なお金を残した結果、住宅ローンへ使える金額を算出します。
手取り収入から安全な返済額を考える
一つの目安として、住宅ローン返済額を手取り月収の20%前後、固定資産税、保険、修繕費を含む実質住宅費を25%以内に抑えます。
| 手取り月収 | 実質住宅費25% | ローン返済額の目安 |
|---|---|---|
| 30万円 | 7万5,000円 | 5万〜6万円 |
| 35万円 | 8万7,500円 | 6万〜7万円 |
| 40万円 | 10万円 | 7万〜8万円 |
| 45万円 | 11万2,500円 | 8万〜9万円 |
| 50万円 | 12万5,000円 | 9万〜10万円 |
| 60万円 | 15万円 | 11万〜12万円 |
ローン返済額以外に、月2万〜3万円程度の住宅関連費用を確保した場合の目安です。
教育費や車の負担が大きい家庭は、さらに低く抑える必要があります。
実質住宅費を計算する
住宅ローンが月9万円の場合でも、実際の住宅費は次のようになります。
| 項目 | 月平均の想定例 |
|---|---|
| 住宅ローン | 9万円 |
| 固定資産税積立 | 1万円 |
| 火災・地震保険積立 | 3,000円 |
| 住宅修繕積立 | 1万5,000円 |
| 実質住宅費 | 11万8,000円 |
手取り40万円なら、実質住宅費は約29.5%です。
「住宅ローンは手取りの22.5%だから安全」とは判断できません。
税金、保険、修繕まで加えて確認します。
金利3%で逆算する
変動金利を選ぶ場合、現在の低い金利から借入額を決めるのは危険です。
35年返済、元利均等、ボーナス払いなしの場合の概算です。
| 借入額 | 金利1% | 金利1.5% | 金利3% |
|---|---|---|---|
| 2,500万円 | 約7万1,000円 | 約7万7,000円 | 約9万6,000円 |
| 3,000万円 | 約8万5,000円 | 約9万2,000円 | 約11万5,000円 |
| 3,500万円 | 約9万9,000円 | 約10万7,000円 | 約13万5,000円 |
| 4,000万円 | 約11万3,000円 | 約12万2,000円 | 約15万4,000円 |
借入3,500万円では、金利1%と3%で月約3万6,000円の差です。
安全な借入額は、金利3%でも教育費の積立を止めずに返せる金額から逆算します。
収入減少時も試算する
夫の手取り30万円、妻の手取り20万円なら、世帯手取りは50万円です。
住宅ローン10万円なら、通常時は払えそうに見えます。
しかし、妻の収入が10万円へ減れば、世帯手取りは40万円です。
さらに金利上昇で返済額が13万円になり、税金、保険、修繕費が月3万円あれば、実質住宅費は16万円です。
手取り40万円の40%が住宅費になります。
共働き家庭では、少なくとも次の3条件で試算します。
| 条件 | 世帯収入 |
|---|---|
| 通常 | 現在の夫婦収入 |
| 収入減少 | 片方の収入が半分 |
| 共働き終了 | 主たる収入のみ |
共働きを続けなければ成立しない借入額は、安全性が高いとはいえません。
教育費ピーク時に返せるか
子どもが8歳と6歳なら、10年後と12年後に大学進学を迎えます。
第一子が大学3年生のときに、第二子が大学へ入学する可能性があります。
一人当たり年間200万円必要なら、大学在学が重なる2年間は年間400万円です。
安全な借入額を判断するときは、教育費ピーク時の次の数字を確認します。
- 夫婦の年齢
- 手取り収入
- 住宅ローン返済額
- 住宅ローン残高
- 教育資金残高
- 車の買い替え
- 住宅設備の交換
- 年間収支
現在の家計で返せることより、教育費のピークでも赤字にならないことが重要です。
建築後の現金を残す
借入額を減らすために、預金を頭金へ入れすぎてはいけません。
例えば、預金600万円から頭金400万円、諸費用150万円を支払えば、残る現金は50万円です。
毎月の生活費が30万円なら、2か月分もありません。
安全な資金計画では、建築後にも次の現金を残します。
- 生活費6か月分以上
- 教育資金
- 車の買い替え準備
- 家具・家電
- 引っ越し費用
- 医療・収入減少への予備費
借入額が300万円増えても、手元に300万円残す方が安全な場合があります。
借入残高だけでなく、現金残高とのバランスで判断します。
70歳前後までの完済を目指す
| 借入時年齢 | 35年返済 | 40年返済 | 50年返済 |
|---|---|---|---|
| 30歳 | 65歳 | 70歳 | 80歳 |
| 35歳 | 70歳 | 75歳 | 85歳 |
| 40歳 | 75歳 | 80歳 | 90歳 |
| 45歳 | 80歳 | 85歳 | 95歳 |
40歳で50年ローンを組めば、計算上の完済は90歳です。
月々返済額は下がりますが、住宅価格が安くなったわけではありません。
安全な借入額は、返済期間を限界まで延ばさなくても、70歳前後までの完済を目指せる金額です。
退職金を使わずに計算する
住宅会社から、
「退職金で残りを返せば大丈夫」
と説明されることがあります。
しかし、退職金は住宅ローンだけのためのお金ではありません。
- 年金で不足する生活費
- 医療・介護
- 住宅修繕
- 車の買い替え
- 配偶者一人になった後の生活
まず退職金を住宅ローンへ使わない状態で、90歳までの資産推移を確認します。
それでも余裕がある場合に、退職時の繰上返済を検討します。
安全な借入額のモデルケース
夫35歳、妻32歳、子ども8歳と6歳、世帯手取り40万円の家庭を想定します。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 手取り収入 | 40万円 |
| 基本生活費 | 19万円 |
| 教育資金 | 4万円 |
| 車・特別費 | 3万円 |
| 老後資金 | 2万円 |
| 予備費 | 2万円 |
| 住宅へ使える総額 | 10万円 |
住宅へ使える10万円から、固定資産税、保険、修繕費として月2万5,000円を差し引きます。
住宅ローン返済へ使える金額は月7万5,000円です。
現在金利1.5%で逆算
35年返済なら、借入額は約2,450万円です。
金利3%で逆算
同じ月7万5,000円以内に抑えるなら、借入額は約1,950万円です。
この差をどう判断するかが、金利リスクへの考え方です。
金利が上がった場合に月9万円程度まで対応できるなら、借入額を調整できます。
重要なのは、現在金利だけで最大額を決めないことです。
希望額・標準額・安全額を比較する
一つの借入額だけで住宅計画を提示されると、安全性を判断できません。
| 比較案 | 判断基準 |
|---|---|
| 希望優先 | 希望する土地・建物を実現する借入額 |
| 標準 | 教育費と住宅性能を守れる借入額 |
| 安全重視 | 収入減少・金利3%でも耐えられる借入額 |
比較する数字は次のとおりです。
- 建築総額
- 借入額
- 毎月返済額
- 金利3%時の返済額
- 建築後の現金
- 教育費ピーク時の資産
- 退職時のローン残高
- 完済年齢
- 90歳時点の資産
希望する家を建てられるかだけでなく、何を選ぶと将来のお金がいくら減るのかを確認します。
安全額を超えている危険信号
次の項目が複数当てはまる場合、借入額を見直してください。
- 借入額が年収の6倍を超える
- 住宅ローンだけで手取りの25%を超える
- 税金・保険・修繕費を計算していない
- 頭金を入れると預金がほぼなくなる
- 教育費を住宅購入後に減らす
- 共働きを辞めると赤字になる
- 金利が2%上がると貯金を取り崩す
- ボーナス払いを使う
- 車を毎回ローンで買う
- 退職金で完済する予定
- 完済年齢が80歳を超える
- 90歳までの資産を確認していない
審査に通ったという理由だけで進めてはいけません。
本当に安全か確認する10項目
- 入居までの総額が確定している
- 建築後も生活費6か月分以上が残る
- 教育費を積み立てられる
- 車の買い替え資金を準備できる
- 住宅修繕費を積み立てられる
- 片方の収入が減っても赤字にならない
- 金利3%でも返済できる
- ボーナス払いなしで成立する
- 70歳前後までの完済を目指せる
- 90歳時点で資産が残る
この10項目を満たす借入額が、その家庭にとっての安全額です。
俺流結論
本当に安全な借入額は、銀行が貸してくれる上限額ではありません。
現在の収入で払える金額でもありません。
収入が減る。
金利が上がる。
教育費が増える。
車や住宅設備の交換が重なる。
それでも家計が赤字にならず、70歳前後までに完済し、90歳まで資産が残る。
その金額が本当に安全な借入額です。
住宅会社は、返済期間を40年、50年へ延ばせば、希望する家を買えるように見せられます。
しかし、高すぎる家が安全な家に変わったわけではありません。
家族に必要なお金を先に確保し、悪い条件でも返せる月額を決め、その月額から借入額を逆算する。
「いくら借りられるか」ではなく、「何が起きても守れるか」。
この基準で住宅ローンを決めるべきです。










