営業マンの「サービスします」は契約書に書かなければ無効?
A. 口約束でも、双方が合意していれば直ちに無効になるわけではありません。ただし、契約書・見積書・仕様書に残っていなければ、後から「言った・言わない」になり、約束を証明するのが非常に難しくなります。
営業マンから、
「食洗機はサービスします」
「太陽光を無料で付けます」
「カップボードは私が何とかします」
と言われたことが契約の決め手になる場合があります。
しかし、契約後に担当者や上司から、
「その内容は契約書にありません」
「無料なのは商品だけで、取付費は別です」
「担当者が勝手に言ったことです」
と否定されるトラブルがあります。
口約束でも契約は成立する
一般的な契約は、申込みと承諾が一致すれば、原則として口約束でも成立します。
消費者庁も、法律に特別な定めがある場合を除き、書面がなくても口約束で契約は成立すると説明しています。消費者庁「契約の成立について」
したがって、
「契約書に書いていないから、営業マンの約束は必ず無効」
とは言い切れません。
問題は、その約束が本当にあったことと、具体的な内容を施主側が証明できるかです。
建築工事は書面に残すのが原則
建設業法第19条では、建設工事の内容、請負代金、工期などを契約書面へ記載し、当事者間で交付することを求めています。
また、契約後に工事内容や金額を変更する場合も、その変更内容を書面または適切な電子的方法で残すことが求められます。e-Gov法令検索「建設業法」
国土交通省も、契約内容が不明確・不正確だと、後日の紛争原因になると説明しています。国土交通省「建設工事標準請負契約約款」
つまり、口約束が当然無効になるわけではありませんが、住宅会社には、工事内容や金額を明確に書面化することが求められます。
契約書が優先されやすい理由
契約前に営業マンが「無料」と話していても、契約書には次のように書かれていることがあります。
本契約の内容は、契約書・見積書・仕様書・設計図書による
さらに、
営業担当者との口頭による約束は、書面による確認がない限り契約内容に含まれない
という条項が入っている場合もあります。
この状態で署名・押印すると、住宅会社は、
「最終的には契約書の内容で合意した」
と主張します。
口頭説明があった事実だけでなく、署名した契約書と違う内容を、なぜ合意したのかまで争うことになります。
「サービス」の内容が曖昧すぎる
例えば、
「カップボードをサービスします」
だけでは、次の内容が分かりません。
- メーカー
- 商品シリーズ
- 幅・高さ・奥行き
- 扉カラー
- 吊戸棚の有無
- 壁下地
- コンセント
- 搬入費
- 取付費
- 消費税
- 保証
住宅会社が30万円の商品を想定し、施主が60万円の商品を想像していた場合、どちらも「カップボード」と呼べます。
「サービス」という言葉だけでは、契約内容を特定できません。
無料だと思ったら取付費が別になる
よくあるのが、商品本体だけを無料にするケースです。
| 項目 | 金額例 |
|---|---|
| カップボード本体 | サービス |
| 側面パネル・調整部材 | 4万円 |
| 壁下地 | 3万円 |
| コンセント工事 | 3万円 |
| 搬入・組立・取付 | 8万円 |
| 諸経費・消費税 | 2万円 |
| 施主負担 | 20万円 |
営業マンは「商品をサービスする」と考え、施主は「設置まで全部無料」と考えています。
どちらが正しいかではなく、契約前に範囲を決めなかったことが問題です。
30万円のサービスが消える例
営業マンから、
「契約してくれれば、30万円分の設備をサービスします」
と言われて契約したとします。
ところが契約書には、その設備も値引きも記載されていません。
契約後に営業マンが退職し、会社から、
「会社として承認していないため、追加30万円です」
と言われれば、施主は30万円を払うか、設備を諦めるかという選択になります。
30万円を金利2%・35年の住宅ローンへ追加すれば、総支払額は概算約42万円です。
営業マンの一言が、最終的には42万円の違いになります。
証拠として強い順番
| 記録 | 証明力の目安 |
|---|---|
| 契約書・特約・覚書 | 最も明確 |
| 署名入りの見積書・仕様書 | 内容と金額を確認しやすい |
| 会社承認済みの打合せ記録 | 合意した経緯を残せる |
| 会社メール・電子契約 | 送信者と内容を確認しやすい |
| LINE・SMS | 約束の存在を補強できる |
| 録音 | 前後の会話や対象商品の特定が必要 |
| 施主だけのメモ | 単独では弱い |
| 記録のない口約束 | 最も争いになりやすい |
LINEや録音があっても、商品・数量・取付範囲が分からなければ十分とは限りません。
最も安全なのは、契約書の添付資料として残すことです。
「サービス確認書」に書く内容
無料提供を約束してもらった場合は、次のように書面化します。
カップボードサービス
メーカー:〇〇
シリーズ:〇〇
品番:〇〇
幅:1,800mm
数量:1セット
扉カラー:〇〇
側面パネル・壁下地・搬入・取付を含む
通常追加価格:330,000円(税込)
値引額:330,000円
施主追加負担:0円
保証:標準設備と同条件
住宅会社の責任者または会社として承認できる担当者に確認してもらい、双方で保管します。
電子契約の場合も、覚書や仕様確認書をPDFで添付できます。
危険な営業マンの言葉
次のように言われたら、その場で契約しない方が安全です。
- 「契約書には書けませんが、私が責任を持ちます」
- 「本社には内緒で付けます」
- 「契約後に現場監督へ言っておきます」
- 「書かなくても、いつもサービスしています」
- 「今日契約してくれれば何とかします」
- 「見積書へ書くと値引きが減るので書けません」
- 「担当者同士では話が通っています」
本当に会社として提供できるサービスなら、契約書へ書けない理由はありません。
サービス値引きで別の項目が消えていないか
「30万円サービス」と書かれていても、必ず得をしているとは限りません。
| 契約前 | サービス後 |
|---|---|
| 建物価格 | 2,000万円 |
| 通常値引き | 50万円 |
| カップボード | 30万円 |
| 最終価格 | 1,980万円 |
サービス後に通常値引き50万円が消えていれば、実際には20万円高くなります。
確認すべきなのはサービス品の金額ではなく、変更前後の最終総額です。
すでに口約束で契約してしまった場合
まず、感情的に抗議する前に記録を整理します。
- 約束された日時と場所
- 営業マンの氏名
- 約束された商品・工事
- 同席していた人
- LINE・メール・録音
- 契約前後の見積書
- カタログや営業資料
- 契約の決め手になったこと
そのうえで、住宅会社へメールなどで確認します。
〇月〇日の打合せで、担当の〇〇様から、〇〇について商品・取付費を含めて追加負担0円と説明を受けました。契約内容への反映状況と、会社としての承認をご回答ください。
回答が出るまで、その工事を進めたり有料の変更書へ署名したりしないことが重要です。
会社と解決できない場合は、国土交通大臣指定の住宅相談窓口「住まいるダイヤル」や、消費者ホットライン188へ相談できます。住まいるダイヤル、消費者庁「相談窓口」
契約前の一言で防げる
営業マンから「サービスします」と言われたら、こう返してください。
「ありがとうございます。商品・取付費・税込みで追加0円と、契約書に書いてください」
これで態度が変わるなら、そのサービスは会社として承認されていない可能性があります。
口約束だから直ちに無効なのではありません。しかし、数千万円の住宅契約で、数十万円の約束を営業マンの記憶だけに預けるべきではありません。
契約書に書けないサービスは、最初から“ないもの”として資金計画を組む。
正直な住宅会社は、サービスを大きく口で見せるのではなく、品番・数量・取付範囲・値引額・最終総額を契約前に書面で示します。










