介護や看取りに合わせて間取りを変更できる「可変性」は、どう持たせればよいですか?
質問
夫婦ともに60代です。将来、どちらかに介護が必要になった場合や、自宅での看取りを希望した場合に備えたいと考えています。建て替え時から介護用の部屋をつくるべきでしょうか?
回答
結論から言えば、最初から介護施設のような家にする必要はありません。今は普通に暮らせて、必要になったときに小さな工事で介護へ対応できる家にしておくことが重要です。
将来、介護が必要になるか、施設へ入居するか、自宅で看取るかは、現時点では分かりません。
使うか分からない介護設備へ多額の費用をかけるより、完成後に変更しにくい構造、配管、出入口、寝室の配置を準備しておく方が現実的です。
「10年後・20年後」を決めつけない
シニアの家づくりでは、住宅会社から次のような提案を受けることがあります。
- 最初から1坪以上の介護用トイレをつくる
- 家中へ手すりを取り付ける
- 車椅子用の広い廊下をつくる
- 使わない介護専用室を設ける
- 将来のために大きな家を建てる
しかし、実際に必要になる介助方法は、病気や身体の状態によって違います。右側から介助するのか、左側から介助するのかさえ、今は決められません。
将来を予測して設備を固定するより、将来の状態に合わせて変更できる余白を残す方が失敗を防げます。
将来の介護室は、普段使う部屋と兼用する
おすすめは、リビングの近くにある洋室を、現在は寝室、趣味室、来客室として使い、必要になったら介護室へ変更する方法です。
介護室として使う可能性のある部屋は、次の条件を確認します。
- 1階にある
- トイレと洗面所に近い
- 玄関から遠過ぎない
- 訪問介護・訪問看護の人が入りやすい
- リビングから様子を確認できる
- 引き戸で出入りできる
- 介護ベッドの周囲へ人が立てる
- 独立した冷暖房が使える
- 換気と採光を確保できる
「6畳あるから大丈夫」とは限りません。介護ベッドを置いた図面を作り、ベッドの左右や足元に介助者が立てるか、車椅子を寄せられるかを確認してください。
夫婦の寝室は分けられるようにする
夫婦一緒の寝室を希望していても、介護が始まると生活時間が変わります。
夜間の排泄介助、医療機器の音、訪問サービス、照明などによって、介護する配偶者が眠れなくなることがあります。
そこで、寝室を次のように変えられる設計が有効です。
- 2室を引き戸でつなぎ、普段は一体で使う
- 広い寝室を将来2室へ分けられるようにする
- 寝室の隣に小さな個室を設ける
- リビング隣接の洋室を介護室に転用する
広い1室を将来分ける場合は、あらかじめ出入口、窓、照明、コンセント、エアコン位置を2室分用意します。後から壁をつくっても、一方の部屋に窓や空調がなければ使えません。
動かせない壁と配管を先に考える
可変性のある家をつくるうえで重要なのが、将来撤去する可能性のある壁を、耐力壁や設備配管の集中場所にしないことです。
例えば、トイレと洗面所の間の壁を将来撤去して介助スペースを広げたいなら、その壁へ重要な柱、筋かい、給排水管を集中させない設計が必要です。
契約前に、設計者へ次の質問をしてください。
- 将来撤去できる壁はどこですか
- 寝室を2室に分けられますか
- トイレを洗面所側へ広げられますか
- 扉を広くする工事は可能ですか
- 手すり用の下地はどこに入りますか
- 配管位置を図面と写真で残せますか
「将来リフォームできます」という口頭説明ではなく、変更可能な場所を図面へ明記してもらいましょう。
看取りを想定するなら、玄関からの動線も確認する
自宅で療養する場合、家族だけでなく、医師、訪問看護師、介護職、ケアマネジャー、薬剤師などが出入りする可能性があります。
厚生労働省も、在宅療養や看取りには、医療機関、訪問看護、薬局、居宅介護支援事業所などの連携が必要だと示しています。厚生労働省「在宅医療の体制」
介護室が家の最も奥にあると、支援者がリビングや夫婦の私的空間を毎回通ることになります。玄関から介護室、トイレまでの経路を短くしておくと、本人と家族双方のプライバシーを守りやすくなります。
また、車椅子や担架で移動できるよう、玄関から寝室までの曲がり角、扉の幅、家具を置いた後の通路も確認します。
コンセントは多めに、位置は分散させる
在宅療養では、電動ベッド、吸引器、酸素濃縮器、加湿器、見守り機器などを使う可能性があります。
延長コードを何本も床へ這わせると、介助者の転倒や機器の電源抜けにつながります。介護室へ転用する部屋には、ベッドを置く可能性のある複数の壁へコンセントを設けます。
ただし、医療機器に必要な電源や停電対策は機器によって異なります。実際に在宅療養へ移る段階で、医師や訪問看護事業者、機器業者と確認してください。
介護設備は「後付け」を基本にする
次のものは、必要になってから身体状況に合わせて選ぶ方が合理的です。
- 手すり
- 介護ベッド
- ポータブルトイレ
- 据え置き型スロープ
- 浴室用いす
- 見守りセンサー
- 移動用リフト
介護保険による福祉用具貸与や住宅改修を利用できる場合もあります。新築時にすべて購入しても、必要になる頃には身体状況や製品が変わっている可能性があります。
一方、壁の下地、床の段差、扉幅、配管、部屋の配置は、完成後の変更費用が高くなります。ここだけは建て替え時に準備しておきます。
在宅看取りが可能かは、間取りだけでは決まらない
自宅に介護室があれば、必ず在宅看取りができるわけではありません。
本人の希望、家族の介護力、病状、医療機関との距離、訪問診療・訪問看護の対応、緊急時の受け入れ先などによって判断が変わります。
家族で事前に話しておきたいのは次の点です。
- 本人は自宅と施設のどちらを希望するか
- 配偶者だけで介護を背負わないか
- 子どもはどこまで関われるか
- 夜間や急変時に誰へ連絡するか
- 介護費、医療費、施設費を確保できるか
- 状況が変わったとき、方針を変更できるか
「絶対に自宅で看取る」と決めつける必要はありません。自宅療養を選べる家にしながら、施設入居へ変更できる資金も残しておくことが大切です。
デザインハウス甲府の考え方
デザインハウス甲府では、使うか分からない介護設備を最初から詰め込む提案はしません。
寝室とトイレの距離、引き戸、手すり下地、撤去可能な壁、介護ベッドの配置、訪問スタッフの動線まで図面で確認し、必要になったときに小さな工事で変更できる家を考えます。
さらに、断熱等級6・UA値0.46以下、全棟気密測定によるC値0.7以下、第一種熱交換換気を基本とし、寝室、廊下、トイレ、洗面所の温度差を抑えます。介護が必要になれば在宅時間が長くなるため、段差だけでなく室温差も重要です。
老後に強い家とは、介護設備だらけの家ではありません。元気な今を快適に暮らし、身体と家族の状況が変わったときに、無理なく姿を変えられる家です。










