退職金(例:2,000万円)をすべて建替えにつぎ込んでしまったシニアが陥る「医療・介護費不足」のリアル。
こんなご相談をいただきました
「退職金として2,000万円を受け取る予定です。住宅ローンを残したくないため、全額を実家の建替えに使おうと思っています。無借金なら老後も安心ではないでしょうか?」
A. 退職金を全額建替えに使うことはおすすめしません。住宅ローンはなくなっても、医療・介護・生活費に使える現金までなくなれば、老後の安全性は大きく低下します。
「無借金だから安心」とは限らない
退職金2,000万円を建替えに使えば、毎月のローン返済は抑えられます。
しかし、家は必要なときに100万円だけ現金化することができません。急な入院や介護、施設入居が必要になっても、自宅をすぐ希望価格で売れるとは限らないからです。
老後に必要なのは、資産総額だけではありません。
必要なときに、すぐ使える現金がいくら残っているかが重要です。
年金だけで生活費を賄えない可能性
総務省の2025年家計調査では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯について、可処分所得は月平均約22万2,000円、消費支出は約26万4,000円でした。
平均では、毎月約4万2,000円が不足する計算です。総務省「家計調査報告2025年平均」
仮に毎月4万円の不足が続けば、
- 1年間:約48万円
- 10年間:約480万円
- 20年間:約960万円
が必要です。
これには、大規模な医療費、介護施設の入居費、住宅修繕費、車の買替えなどは十分に含まれていません。
退職金2,000万円を全額使った場合
例えば、65歳の夫婦が退職金2,000万円を建替えに使い、完成後の預貯金が300万円になったとします。
その後、次の支出が重なる可能性があります。
- 年金で不足する生活費:年間約50万円
- 車の買替え:150万円
- 給湯器・エアコンの交換:100万円
- 入院や通院の自己負担
- 介護サービスや住宅改修
- 施設入居時の初期費用
年間50万円の生活費不足だけでも、300万円は6年でなくなります。
立派な新築住宅が残っていても、日常生活に使える現金がない状態です。
医療保険・介護保険があっても現金は必要
公的医療保険には高額療養費制度があり、介護保険にも自己負担を抑える仕組みがあります。
それでも、次の費用がすべてなくなるわけではありません。
- 入院時の食事代や差額ベッド代
- 通院の交通費
- 介護用品や配食サービス
- 介護保険対象外の家事支援
- 有料老人ホームなどの居住費
- 家族が介護するための移動費
- 手すりやスロープなどの追加工事
特に夫婦の場合、一方が入院・入所しても、もう一方の自宅生活費は続きます。「保険があるから現金は少なくてよい」とは限りません。
建替え後に残す現金の決め方
すべての家庭に共通する金額はありませんが、少なくとも次の4つを分けて計算します。
- 年金で不足する生活費の10年分
- 医療・介護・施設入居の予備費
- 車・家電・住宅設備の更新費
- 葬儀・相続など家族へ残す費用
例えば、次のような資金計画を作ります。
| 項目 | 試算例 |
|---|---|
| 生活費不足10年分 | 500万円 |
| 医療・介護予備費 | 500万円 |
| 車・家電の買替え | 250万円 |
| 住宅修繕費 | 200万円 |
| 緊急予備費 | 150万円 |
| 合計 | 1,600万円 |
これは一例です。年金額、保険、健康状態、車の台数、子どもの支援状況によって必要額は変わります。
一部だけ住宅ローンを使う方法もある
「退職金があるのに住宅ローンを借りるのは損」と考える方もいます。
しかし、退職金2,000万円を全額使うのではなく、例えば1,000万円を自己資金、1,000万円を借入れにすれば、手元に現金を残せます。
重要なのは、借りられる金額ではなく、年金収入で無理なく返せる金額と期間です。
- 70歳前後で完済できるか
- 金利が上がっても返済できるか
- 配偶者だけになっても返済できるか
- 団体信用生命保険へ加入できるか
- 返済後も生活費が不足しないか
60歳以上では、毎月利息のみを支払う「リ・バース60」も選択肢になります。ただし、担保評価や取扱地域、金融機関の審査があり、山梨県では希望どおり利用できないケースもあります。住宅金融支援機構「リ・バース60」
予算を下げることも立派な老後対策
返済が負担になるなら、借入れを増やすのではなく建替え総額を下げます。
- 延床面積を小さくする
- 使わない部屋をつくらない
- 複雑な外観や屋根を避ける
- 設備のグレードを整理する
- 外構工事を必要な範囲に絞る
ただし、断熱・気密・耐震性能を削ると、光熱費や健康、安全性へ影響します。
老後の建替えでは、見栄や設備を削り、住宅性能と現金を残す方が合理的です。
デザインハウス甲府からのアドバイス
住宅会社が「退職金2,000万円があるなら、現金で建てられます」とだけ説明するのは簡単です。
しかし、本当に確認すべきなのは、2,000万円を払えるかではなく、払った後に夫婦が何歳まで生活できるかです。
デザインハウス甲府では、建物価格だけでなく、解体、仮住まい、2回の引越し、登記、外構まで含めた総額と、建替え後に残る資産を確認します。
退職金を使い切らなければ建てられない計画は、予算内とはいえません。
家を無借金にすることより、医療や介護が必要になったときに、迷わず使える現金を残すこと。これがシニアの建替えで守るべき優先順位です。










