シニアの建て替えで「退職金」をすべて充当するのが危険な理由は?
結論
退職金を建て替え費用へすべて充当するのは危険です。
住宅ローンを残さない安心感は得られても、建築後に手元資金がなくなれば、医療、介護、車の買い替え、住宅修繕などへ対応できません。
シニア世代の資金計画で優先すべきなのは、無借金にすることではなく、90歳、95歳まで現金が残ることです。
退職金の投入額は、住宅価格から決めるのではなく、老後に残すべき資金を先に確保してから決めます。
退職金は「余ったお金」ではない
退職金2,000万円を受け取ると、大きな余裕ができたように感じます。
しかし、退職後は給与収入がなくなり、年金を中心とした生活に変わります。退職金は、今後20年、30年の生活を支える大切な資金です。
金融広報中央委員会も、老後資金を次のような目的に分けて考える必要があると説明しています。
- 日常の生活資金
- 医療などを含むライフイベント資金
- 介護資金
詳しくは、金融広報中央委員会「退職金の運用方法を考える」でも確認できます。
退職金をすべて住宅へ変えてしまうと、家は残っても、自由に使える現金がなくなります。
「家があるから大丈夫」とは限らない
手元資金が不足したら、家を売ればよいと考える人もいます。
しかし、山梨県では、地域、土地の形状、周辺環境、建物の大きさなどによって、希望価格ですぐ売却できるとは限りません。
特にシニア向けに小さくつくった平屋が、建築費に近い価格で再販できる保証はありません。売却できても、仲介手数料、登記、引越し、次の住居費などが必要です。
住宅は資産ですが、必要なときにすぐ使える現金ではありません。
「売れば老後資金になる」という前提で退職金を投入してはいけません。
建て替え後にも大きな支出は発生する
新築したからといって、その後の支出がなくなるわけではありません。
建築後には、次の費用が考えられます。
- 固定資産税
- 火災保険・地震保険
- 車の買い替え
- 家電の故障・交換
- 給湯器やエアコンの交換
- 外壁、屋根、防水などの修繕
- 医療費
- 介護費
- 配偶者が亡くなった後の収入減少
- 施設入居費や住み替え費用
太陽光発電、蓄電池、全館空調などを採用すれば、将来の機器交換費も考えておく必要があります。
建築会社が「新築だから当分お金はかかりません」と説明しても、住宅以外の生活費や医療・介護費までなくなるわけではありません。
先に「残すお金」を決める
退職金の投入額を決める手順は次のとおりです。
- 夫婦それぞれの年金見込額を確認する
- 現在の生活費との差額を計算する
- 90歳または95歳までの不足額を出す
- 医療・介護・車・修繕などの予備費を加える
- その金額を金融資産から先に確保する
- 残った範囲で建て替えの自己資金を決める
「退職金の半分を残せば大丈夫」など、一律の基準はありません。
年金額、配偶者の年齢、健康状態、車の必要性、子どもからの支援、保有資産によって必要額は変わります。
J-FLECも、リタイア後の資金が十分かどうかは、各家庭のライフスタイルに合わせて改善策を考える必要があるとしています。J-FLEC「リタイア後のライフプラン戦略」
退職金2,000万円を受け取った場合の考え方
例えば、65歳で退職金2,000万円、既存の預貯金800万円があり、金融資産の合計が2,800万円だったとします。
ここで建て替え総額2,650万円を現金で支払えば、残るのは150万円です。
150万円では、車の買い替えや医療費が重なっただけで不足する可能性があります。
一方、老後資金として1,200万円を先に確保すれば、建築へ使える自己資金は最大1,600万円です。
建て替え総額が2,650万円なら、残りは1,050万円です。この金額を無理に借りるのではなく、
- 建物を小さくする
- 不要な設備を削る
- 外構を必要最低限にする
- 建築総額を2,200万円程度まで再設計する
- 返済可能な範囲だけ一部借入れを利用する
という順番で調整します。
削るべきなのは、耐震、断熱、気密、換気など将来の安全や生活費に関係する性能ではありません。面積、造作、設備のグレード、使わない客間などから見直します。
全額現金と一部ローンはどちらがよいか
全額現金には、利息がなく、毎月の返済もないというメリットがあります。
一方、一部を住宅ローンにすれば、手元資金を残せます。ただし、シニアの住宅ローンには、完済年齢、収入、健康状態、団体信用生命保険などの条件があります。
判断する際は、次の2案を比較します。
全額現金で支払う場合
- 建築後に残る金融資産
- 90歳時点の資産残高
- 医療・介護費が発生した場合の残高
一部ローンを利用する場合
- 毎月返済額
- 年金収入に対する返済割合
- 総支払利息
- 完済年齢
- 建築後に残る金融資産
ローン金利だけを見れば、現金を多く入れる方が有利です。しかし、老後は一度使った現金を再び借りることが難しくなります。
利息を減らすことと、生活資金を失うことは、同じではありません。
退職金の一部を繰上返済する方法もある
最初から退職金のほとんどを投入せず、生活が落ち着いてから一部を繰上返済する方法もあります。
建築後1~2年生活すると、実際の光熱費、税金、生活費、維持費が分かります。その時点で余裕資金が確認できれば、返済額を減らす繰上返済を検討できます。
反対に、契約時に退職金をすべて投入してしまうと、後から取り戻すことはできません。
迷う場合は、最初から使い切らず、判断を後へ残す方が安全です。
住宅会社が退職金の全額投入を勧める理由
住宅会社にとっては、自己資金が多いほど住宅ローン審査が通りやすくなり、高額な建物を契約してもらいやすくなります。
そのため、
「退職金を入れれば希望の家が建てられます」
「借金を残さない方が安心です」
「せっかくの建て替えだから妥協しない方がよい」
と勧められることがあります。
しかし、その営業担当者が、建築後の生活費や介護費を負担してくれるわけではありません。
退職金をいくら使うかは、住宅会社の契約金額ではなく、本人の老後資金計画から決めるべきです。
契約前に確認したい5項目
- 建て替え総額には解体、仮住まい、2回の引越しも含まれているか
- 退職金を使った後に現金はいくら残るか
- 年金だけで毎月の生活費を賄えるか
- 90歳、95歳時点の資産残高はいくらか
- 医療・介護・修繕費が発生しても資金が残るか
この5項目を数字で確認できないまま、退職金の投入額を決めてはいけません。
デザインハウス甲府の考え方
デザインハウス甲府では、「退職金が2,000万円あるから、2,000万円使える」とは考えません。
先に90歳、95歳までの生活費、医療・介護費、住宅修繕費などを確認し、残しておく資金を決めます。そのうえで、無理のない建て替え総額へ調整します。
必要であれば面積や設備を見直しますが、耐震等級3、断熱、気密、換気など、命と将来の生活費に関わる性能は簡単に削るべきではありません。
住宅ローンが0円でも、預金まで0円になれば安心な老後とはいえません。
退職金は家を豪華にするためのお金ではなく、退職後の人生を守るお金です。家を残すだけでなく、現金も残す。それがシニアの建て替えで最も重要な資金計画です。










