資材高騰による「価格改定条項」はどこまで有効?
A.価格改定条項そのものは有効になり得ます。しかし、住宅会社が「資材が上がった」と言うだけで、契約後に自由な金額を請求できるわけではありません。
有効性を判断するポイントは、次の5つです。
- どの資材が対象なのか
- いつの価格と比較するのか
- 何%上昇したら適用するのか
- 増額をどう計算するのか
- 誰がどの証拠を提示するのか
これらが曖昧なまま、
資材価格が上昇した場合、当社の判断で請負代金を変更できる
とだけ書かれている契約は要注意です。
「協議できる条項」と「住宅会社が一方的に決められる条項」は、まったく別物です。
契約後の住宅価格は固定ではないのか?
工事請負契約では、建物の仕様、請負代金、支払い時期、工期などを合意します。
したがって、契約後は原則として、合意した請負代金が基準です。
ただし、契約書に価格改定条項があり、その適用条件を満たした場合は、住宅会社から増額協議を求められる可能性があります。
2024年12月13日施行の改正建設業法では、資材価格高騰などが起きた場合の請負代金の変更方法を契約書の記載事項として明確化しました。
また、契約前から高騰のおそれを把握している場合、住宅会社側は根拠情報とともに発注者へ通知し、実際に高騰したときは契約書で定めた方法に従って変更協議を申し出る仕組みです。国土交通省「建設業法・入契法改正」
重要なのは、増額協議を申し出られることと、注文者が請求額をそのまま支払わなければならないことは同じではないという点です。
価格改定条項に「法律上の上限」はある?
一般の注文住宅について、法律で一律に、
- 3%まで
- 50万円まで
- 契約金額の1%を超えた部分だけ
と決められているわけではありません。
国土交通省の公共工事では、特定資材の価格増加分のうち対象工事費の1%を超える金額を発注者が負担する「単品スライド」という仕組みがあります。
しかし、これは国の直轄工事における運用です。民間の注文住宅に自動的に適用される制度ではありません。国土交通省「単品スライド条項の運用」
一般住宅では、契約書に定めた次の内容によって負担額が決まります。
| 確認項目 | 契約書に必要な内容 |
|---|---|
| 対象資材 | 木材、鋼材、断熱材、住宅設備など |
| 基準日 | 見積日、契約日、発注予定日など |
| 適用条件 | 価格が何%以上変動した場合か |
| 対象範囲 | 未発注分だけか、工事全体か |
| 計算方法 | 実際の値上がり額か、指数連動か |
| 負担区分 | 住宅会社と施主がどう分担するか |
| 証明資料 | 仕入見積書、請求書、公的な価格資料など |
| 手続き | 書面による協議・変更契約の締結 |
| 値下がり時 | 減額も反映されるか |
| 大幅増額時 | 解約や仕様変更を選べるか |
危険な価格改定条項
次のような条項には注意が必要です。
資材価格、労務費その他の諸経費が変動した場合、請負人は必要と認める金額を注文者へ請求できる。
この文章だけでは、次の内容が分かりません。
- いくら上がったら適用されるのか
- どの資材が上がったのか
- 契約前から分かっていた値上げではないのか
- すでに発注済みの資材まで対象にするのか
- 実際の仕入価格はいくらなのか
- 住宅会社が負担する部分はないのか
- 資材が値下がりした場合は減額されるのか
「市場価格の変動」「社会情勢の変化」「当社が必要と判断した場合」という言葉だけで、住宅会社が金額を一方的に決められる内容は、消費者側に著しく不利となる可能性があります。
消費者契約法では、消費者の義務を重くし、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする規定があります。ただし、実際に無効になるかは条項の内容や説明状況などによって個別に判断されます。消費者庁「消費者契約法」
2,200万円の家が「資材10%高騰」で220万円上がる?
必ずしも、そうではありません。
例えば、契約金額2,200万円の家で、未発注の対象資材が600万円だったとします。
その600万円分が平均8%値上がりした場合、実際の価格差は次のようになります。
600万円×8%=48万円
ところが住宅会社から、
資材価格が10%上がったので、建物価格2,200万円の10%、220万円を追加してください。
と言われたら、その計算根拠を確認する必要があります。
建物価格2,200万円には、資材だけでなく次の費用も含まれています。
- 大工・職人の労務費
- 設計費
- 現場管理費
- 申請費
- 運搬費
- 会社経費
- 利益
資材の一部が10%上がったからといって、契約総額をそのまま10%増額できるとは限りません。
ただし、契約条項が資材だけでなく、労務費・燃料費・運送費などの変動も対象としていれば、それぞれの根拠を確認したうえで協議することになります。
増額請求が出たら確認する7つの証拠
「資材が上がりました」という口頭説明だけで支払わず、次の資料を求めてください。
- 値上がりした資材の名称
- 契約時に想定していた単価
- 現在の仕入単価
- 対象となる数量
- 発注日と納品予定日
- メーカーや仕入先の値上げ通知
- 増額計算書
計算の基本形は、次のようになります。
増額候補=(変更後単価-契約時単価)×未発注数量
そこから、
- 住宅会社が負担する金額
- 施主が負担する金額
- 代替品による減額
- 仕様変更による調整
を協議します。
正直な住宅会社であれば、「資材一式50万円」ではなく、何が、いくら、何個上がったのかを説明できます。
契約前から分かっていた値上げも請求される?
ここは非常に重要です。
契約前にメーカーから値上げ通知が出ており、住宅会社も把握していたのに、古い単価で安く見積もって契約し、契約後に増額するのであれば問題があります。
改正建設業法では、資材価格の高騰や供給不足のおそれを住宅会社が把握している場合、契約前に客観的な根拠情報を発注者へ通知することが求められています。
根拠情報としては、次のようなものが考えられます。
- メーカーの値上げ通知
- 資材業者の発表
- 国や業界団体の統計
- 客観性のある報道資料
つまり住宅会社は、
来月から設備価格が5%上がる可能性があります
と事前に伝え、そのリスクを見積書や契約書へ反映させる必要があります。
安い金額で契約させてから、分かっていた値上げを後出しするのは、正直な総額表示とはいえません。
「値上げ分は全額施主負担」は有効?
契約書に明確な条項があり、契約前に十分説明され、客観的な計算方法が定められていれば、値上げ分を施主が負担する合意が成立する可能性はあります。
しかし、次のような場合は慎重な確認が必要です。
- 適用条件が極端に曖昧
- 金額を住宅会社だけで決定できる
- 証明資料を一切提示しない
- 値上がりは請求するのに値下がりは反映しない
- 契約前に把握していた価格改定を知らせていない
- すでに発注済みの資材まで値上がり対象にする
- 増額に同意しない場合の扱いが書かれていない
- 変更契約を交わさず追加請求する
条項が存在するだけで、どのような請求でも認められるわけではありません。
「契約を解除する」と言われたら?
増額に同意しなかったという理由だけで、住宅会社が自由に契約を解除できるとは限りません。
確認するべきなのは、次の3点です。
- 価格改定について協議する条項なのか
- 合意できない場合の解除条件があるのか
- 解除時の設計料や違約金を誰が負担するのか
増額に納得できない場合は、すぐに変更契約書へ署名せず、
契約書のどの条項に基づく請求ですか。対象資材、数量、契約時単価、現在単価、増額計算書を提示してください。
と書面で伝えましょう。
金額が大きい、工事が停止した、解除を求められたという場合は、国土交通大臣指定の住宅相談窓口である住まいるダイヤルや弁護士などへの相談を検討してください。
契約前に入れておきたい条件
消費者にとって分かりやすい価格改定条項には、少なくとも次の条件が必要です。
契約後、受注者と注文者双方の責任によらない事情により、未発注の主要資材価格に著しい変動が発生した場合、受注者は客観的資料と増減額の計算書を提示し、請負代金の変更を協議できる。変更は、双方が書面で合意した場合に限り行う。
さらに安心度を高めるなら、次の内容も決めておきます。
- 契約後何日間は価格を固定する
- 値上がりが何%未満なら住宅会社が負担する
- 適用対象を未発注資材に限定する
- 実際の仕入価格を証明する
- 値下がりした場合も減額する
- 増額が50万円を超えた場合は仕様変更を選べる
- 増額が一定額を超えた場合の解除条件を決める
- 変更契約前には資材を発注しない
「値上げがあったら協議する」だけではなく、計算方法と消費者が選べる対応まで決めておくことが重要です。
総額表示を掲げる住宅会社がするべきこと
資材高騰のすべてを住宅会社が負担すればよい、という話でもありません。
無理に価格を固定し続ければ、
- 断熱材を安い製品に変える
- 見えない部分の仕様を落とす
- 職人の単価を削る
- 現場管理を減らす
- 経営状態が悪化する
という別の危険が生まれます。
大切なのは、リスクを隠して安く契約することではありません。
正直な住宅会社は契約前に、
- 現在予定されている値上げ
- 価格を固定できる期限
- 固定価格に含まれる範囲
- 高騰した場合の計算方法
- 施主と会社の負担区分
- 増額時に選べる代替案
を説明します。
これが、単なる「安い見積もり」と「信用できる総額表示」の違いです。
結論
価格改定条項は、住宅会社に白紙委任状を渡す条項ではありません。
資材高騰による増額が認められるかは、
- 契約条項の内容
- 高騰の発生時期
- 対象となる未発注資材
- 実際の価格差
- 契約前の説明
- 客観的な証明資料
- 書面による合意
で判断されます。
契約前には、必ずこう聞いてください。
資材価格が上がった場合、何を基準に、どの資材を、どの計算式で増額しますか。値下がりした場合も減額されますか。
「資材が上がったので追加です」では説明になりません。正直な住宅会社は、値上げの可能性だけでなく、その計算式まで契約前に見せます。










