相続税の評価が下がる可能性と、賃貸経営で現金が残ることは別です。税負担を減らすために借入れを増やしても、空室や修繕で毎年の収支が赤字なら、年金や退職金から持ち出すことになります。「節税できるから建てる」と決める前に、賃貸事業として成り立つかを確認してください。
失敗を避けるには、条件を置いた計算で落とし穴を確かめることが有効です。自分の土地で家賃、空室、運営費、借入返済がどう動くかを調べます。実績のある事例でも、地域や条件が違えば同じ結果になるとは限りません。建築会社が示す表の数字を、家族が説明できる状態にしてから判断しましょう。
まず、相続税がいくら問題になるのかを確かめる
国税庁は、貸家建付地の評価に、借地権割合、借家権割合、賃貸割合などを用いる方法を示しています。ただし、建物を建てれば土地全体が一律に同じ割合だけ安く評価されるわけではありません。利用の実態や相続時の制度などを確認する必要があります。[52]
計画の出発点は、現在の財産、債務、相続人を整理した相続税の試算です。対策をしなかった場合と、建築・借入れをした場合を比較します。もともとの税額を確かめないまま、借金を作る効果だけを強調されても、家計に必要な対策かは判断できません。
相続が起こる時期も将来の制度も確定していません。税額の見込みを、数年後にも必ず受け取れる現金として扱わないことです。税理士の計算、銀行の返済表、管理会社の賃料査定を、同じ建物条件で合わせます。税金の説明をした人と、赤字時の資金を負担する人は違います。
満室家賃から、全部の支出を引いてみる
仮に四戸を月7万円で貸すなら、満室時の年間家賃は336万円です。空室などによる収入減を10%と置くと、受取家賃は約302万円になります。これは地域相場や将来の入居率ではなく計算例です。家賃7万円の根拠は、同じ地域の募集条件と成約状況で確認する必要があります。
ここから管理、保険、税金、共用設備、修繕の備え等を年90万円、年間の借入返済を180万円と仮定すると、手残りは約32万円です。満室家賃336万円を、そのまま老後の収入として使えるわけではありません。さらに、所得税等や大きな臨時支出をこの例に含めていない点も確認します。
収入減が25%なら、家賃は252万円です。同じ支出条件では18万円の持ち出しになります。管理費など収入に連動する部分も実務ではありますが、まずは厳しめの条件で耐えられるかを確認します。家賃を下げた場合、募集に時間がかかった場合、金利が上がった場合を別々に試算します。
帳簿上の利益と現金の残り方も違います。返済元金や減価償却などの扱いがあるため、税務上の所得だけで資金繰りを判断しないでください。毎月の銀行口座に残るお金の表と、税金を計算する表を区別して説明してもらうことが重要です。
家賃保証という言葉で、条件を読み飛ばさない
サブリースは、事業者が借り上げて転貸する仕組みですが、契約期間中ずっと同じ賃料が無条件で続くとは限りません。国土交通省は、賃料の減額や契約解除の可能性、賃料が発生しない期間、修繕等の費用負担を確認するよう案内しています。[53]
見るのは、契約年数の大きな文字だけではありません。賃料を見直す時期と方法、事業者側が解約できる条件、オーナーが解約する条件、原状回復や設備交換を誰が負担するかです。営業担当の「空室でも安心」と、契約書の条件が一致するかを自分の言葉で確認します。
指定業者での修繕や定期点検が条件になる場合は、費用の見通しと工事内容の確認方法も聞きます。入居管理を任せられることには価値がありますが、所有者の判断と費用負担が全部なくなるわけではありません。高齢になってから誰が説明を受け、支出を承認するかも決めておきます。
自宅と賃貸部分を、一つの財布で隠さない
賃貸併用住宅では、自宅のための建築費と賃貸部分の建築費を分けて示してもらいます。「家賃で自宅のローンが払えます」という説明だけでは、自宅部分にいくら借りているのか、賃貸部分でどれだけ利益が出ているのかが見えません。賃貸部分がない小さな自宅案との比較も必要です。
空室でも、自宅で暮らす費用は続きます。賃貸の不足を年金から補う場合、生活費や医療・介護への備えがどこまで減るかを試算します。事業用に確保する現金と、夫婦の生活を守る現金を分け、どちらも同じ予備費として二重に数えないようにしてください。
入居者対応の負担もあります。騒音、設備の故障、駐車、共用部の使い方などが、自宅の暮らしに影響する可能性があります。管理会社の営業時間、夜間の対応、オーナーに連絡が来る内容を聞きます。静かな老後を望む家族に、賃貸経営が合うかも判断条件です。
相続する家族が、経営を引き継げるかを考える
子どもが物件を引き継ぐ場合、借入れ、管理契約、修繕の予定も引き継ぐ前提で話します。「家賃の入る財産を残す」という説明で終わらず、収入が下がった場合に売るのか、追加資金を出すのかを考えます。相続人が遠方にいるなら、現地対応の方法も必要です。
売却を出口にする場合は、築年数が進んだ時の想定価格と借入残高を比較します。満室時の楽観的な価格だけでなく、空室や修繕がある状態でも返済できるかを確認します。売れるまでの管理費や返済も続くため、「困ったら売る」を無条件の安全策にはしないことです。
住宅会社や事業者に求めたいのは、節税額の大きな広告より、厳しい条件の収支と撤退時の費用です。建てる案、建てずに資産を整理する案、既存土地を別の方法で扱う案を、家族の生活資金に戻して比較します。節税のために暮らしの余裕を失う計画を選ぶ必要はありません。
提案書の賃料は、募集広告だけでなく、実際に契約が成立した条件や募集期間も確認できる範囲で聞きます。面積、築年数、駐車場、周辺施設の違いを無視した比較では、自分の物件の根拠になりません。資料を出した会社の収入が建築請負や管理契約から生まれることも踏まえ、別の立場から検証してもらいましょう。
相談では「税金の減少額とは別に、家賃が下がり空室が増えた場合の手残りと、売却時の返済残高を見せてください」と伝えましょう。毎年の現金が持続的に残り、家族が管理と出口を理解できることを確認してから、相続対策としての価値を判断します。










