手元資金を残すために一部を借りる選択には合理性があります。ただし、現金を残すこと自体が得なのではなく、利息や手数料を払っても、必要な時期に資金を使える価値があるかで判断します。返済が家計に合わなければ、預金が残っていても安心とはいえません。
「一括払いができる人ほどローンを使うべき」「借金は全部避けるべき」という両極端の説明は不要です。家の総額を固定したうえで、現金払いと一部借入れを比較します。借りられる分だけ建物を豪華にする話へ変わっていないかが、最初の確認点です。
残す現金の目的を先に決める
手元へ残すのは、生活費の不足、数年以内の予定支出、急な出費への備えなど、使い道や役割のあるお金です。「なんとなく多い方が安心」だけでは、利息を払う必要がある金額を決められません。家族の収支から、残す下限を先に計算します。
仮に現預金3,000万円、住宅関係の支払い総額2,700万円なら、全額現金では300万円が残ります。同じ家で1,000万円を借りれば、融資費用等を除くと1,300万円が残ります。しかし借金も1,000万円残るため、純資産が増えたわけではありません。
この二つの差は、手元で使える現金と将来の返済義務の配分です。予備資金が不足する家庭には借入れの価値があり得ますが、すでに十分な現金がある家庭では、余分な利息を払う理由が弱くなる場合があります。同じ借入額を全員に勧めることはできません。
月額と利息の両方を出す
仮定の計算例として、1,000万円を15年、年2%が続く元利均等返済、ボーナス返済なしで借りると、月々約6万4,351円、総利息は約158万円です。借入手数料や登記費用等は含めていません。この例では、現金を残す代わりに毎月の返済を続けます。
総返済額の元金部分は、もともと住宅取得へ必要なお金です。現金払いとの差を比較する際は、主に利息や融資に伴う追加費用を見ます。ただし家計の支払いでは元金も毎月出ていくため、利息だけを月々の負担として説明するのは誤りです。
金融機関の見積もりでは、手数料が定額か借入額に比例するか、保証料、担保設定費用、繰上返済時の費用等を確認します。住宅金融支援機構も諸費用を含む返済プランの比較機能を提供しています。金利だけを見て有利不利を決めないことです。[2]
借入れに伴う費用を計算する際は、金利以外の支払をいつ行うかも確認します。手数料を現金で先払いするなら、残せる現金は借入額そのままではありません。費用も借りる場合は、その返済を含めて比べ、手元資金を残す効果を過大に見せないことです。
借りた後の生活が成り立つことが前提
年金等の手取りから必要生活費と住宅維持費を引き、返済に使える金額を確認します。返済がその範囲を超えるなら、残した現金を取り崩す計画になります。それ自体が直ちに不合理ではありませんが、何年でいくら減るかを明記しなければ判断できません。
例えば、年金生活で返済前の余裕が月4万円なのに、返済が約6万4,000円なら、差の約2万4,000円を毎月どこかから補います。借入れで増えた預金を、返済のために取り崩すだけなら、別の借入額や建物総額で改善できないか検討してください。
再雇用収入を使う場合も、仕事が予定より早く終わった案を作ります。夫婦のどちらかの収入が変わった場合も確認します。現金が多く見えることに安心して、毎月の赤字が積み上がる状態を放置しないことが大切です。
運用や控除で必ず得をすると考えない
手元資金を運用すれば利息以上に増える、という説明だけで借入れを決めることは勧めません。運用収益は確実ではなく、税や費用もあり、必要なときに価格が下がっている可能性もあります。近く使う生活資金を、値動きのある資産へすべて回す判断とは切り離します。
住宅ローン控除も、要件と実際の所得税等の負担によって受けられる額が変わります。退職後は納める税額が変わるため、広告の最大控除額をそのまま利益にしません。控除を考慮しなくても、月々の返済と必要な生活資金が成り立つかを先に確認します。[13]
預金金利との比較をするなら、借入れ側の金利だけでなく諸費用も含め、預金側も税引後で見ます。しかし比較の目的は利ざやを得ることだけではありません。急な支払いに使える資金を確保する必要性を、利息負担と並べて考えることです。
商品の違いで、残る債務の形が変わる
一般的な元利返済型では、毎月の返済に元金が含まれ、条件に沿って残高が減っていきます。一方、リ・バース60のように毎月は利息だけを払い、元金を契約者の死亡時等に返す仕組みもあります。月々の支払額が小さくても、同じ返済計画ではありません。[9]
元金が残る方式では、将来の担保売却や相続人による返済などが家族の希望に合うか確認します。自宅を残したいのか、住んでいる間の現金を重視するのかで選択が変わります。商品を比較するときは、月額と同じ大きさで「いつ元金を返すか」を示してもらいましょう。
また、通常の住宅ローンでも、年齢や収入、団信等の条件が商品によって異なります。フラット35には団信に加入しない利用もありますが、保障がない場合の返済への備えは別に必要です。現金を残す目的でも、借入条件を省略してはいけません。[8]
借りたあとに返す順番も決めておく
当初は現金を残し、生活が落ち着いた後に一部を繰上返済する方法も考えられます。ただし、将来の余剰資金をまだ確認していない段階で、早期返済を確約した試算にはしません。予定どおり繰上返済できなくても、契約上の返済を続けられることが前提です。
判断の時期は、退職金の受取り後、実際の年金生活が始まった後、大きな予定支出が終わった後など、家計を確認しやすい節目にします。そのときの現金残高、今後の支出、借入条件を見て、返す金額と残す金額を再検討してください。
私は、現金払いかローンかという言葉だけで住宅予算を決めるより、建て替え後の自由を守る数字を確認することを勧めます。日常の生活費を無理に削らず、必要な修理や支援を選べることが、借り方を比較する目的です。
相談では「同じ総額の家で、現金払い、一部借入れ、借入額を抑えた案の、月額・追加費用・手元残高を比較してください」と伝えましょう。あえて借りる選択は、残したお金の役割と返済の根拠を説明できる場合に、検討する価値があります。










