60歳から65歳までが、誰にとっても無収入になるわけではありません。ただし、退職、再雇用、年金の開始時期がずれることで、収入が一時的に減る家庭はあります。建て替えでは、住宅費とは別に、その期間の生活費を確保しておく必要があります。
年金生活になってからの収支が合っていても、そこへ到達する前に預金が尽きれば困ります。特に工事代金、仮住まい、引越しが重なる時期は、年間合計だけで判断しないことです。いつ入金があり、いつ支払いが集中するかを月ごとに確認しましょう。
まず「何歳から何歳まで」の思い込みを外す
老齢基礎年金や老齢厚生年金は原則65歳からですが、生年月日や加入歴等によって受給する内容が異なります。希望による繰上げ受給等の仕組みもあるため、自分の受給開始時期と金額を確認します。「全員65歳まで年金がない」と一括りにしません。[11]
雇用についても、65歳までの雇用確保と70歳までの就業機会確保には制度上の違いがあります。ただし、制度があるから現在の給料が同じ額で続くわけではありません。勤務先に、退職後の契約期間、働く時間、給与等を確認してください。[12]
夫婦の年齢差がある場合は、二人の収入が同じ年に切り替わるとは限りません。夫の退職後に妻の給与が続く期間、片方の年金だけを受け取る期間、二人とも年金になる期間を分けます。世帯の収支を一つの平均年収で表すだけでは、途中の不足を見落とします。
収入が少ない期間の生活費を別枠で確保する
仮定の計算例として、退職後の手取り収入が月10万円、生活費等が月25万円なら、不足は月15万円です。その状態が二年続けば360万円、五年なら900万円を取り崩します。住宅ローン返済を25万円に含めていない場合は、返済分も別に加える必要があります。
この金額を頭金に使ってしまうと、年金が始まる前の生活を別の資金で賄わなければなりません。「退職金が入るから大丈夫」ではなく、退職金のうち生活費のつなぎへ回す部分を先に取り分け、残りを住宅予算として考える方が整理しやすくなります。
不足額を計算するときは、退職後に減る支出も確認します。通勤や仕事上の支出が減る一方、家で過ごす時間が増えたり、健康保険や税の支払方法が変わったりする可能性があります。給与が減った割合だけ生活費も減る、という置き方にはしないことです。
この期間は、月々の不足がゼロになる年を一度確認しただけでは足りません。夫婦の退職月と最初の年金入金月を具体的に記入し、入金が始まるまでの口座残高を追います。年齢が受給開始に達する時点と、生活費として使える入金日を区別することが必要です。
建築費の支払日と、入金日を一枚にする
契約金、着工時、上棟時、完成時などの支払い予定と、退職金、融資、年金等の入金予定を並べます。年の終わりに収支が合っていても、着工時に現金が足りなければ工事は進めにくくなります。必要なのは総額の一致だけでなく、途中の資金残高です。
例えば九月に退職金を受け取る予定でも、七月に大きな工事代金を払うなら、その間の資金が要ります。つなぎ融資等を使う場合は、金利と手数料、借入期間が延びた場合の費用を含めます。「後で入るお金」を、今あるお金と同じ扱いにしないことです。
工期が延びれば、仮住まいの家賃や保管費が増える場合があります。いつまでの家賃を見積もりに入れているか、延長時の支払いをどう用意するかも確認します。住宅金融支援機構の資金計画ツールも使えますが、支払時期は自分の契約条件で補ってください。[2]
年金の繰上げを、資金不足の応急処置にしない
繰上げ受給を選ぶと、受給開始を早められる一方で、年金額が減額され、その減額は生涯続きます。取消しができないこと等の注意点もあります。建築費を増やしたために不足した現金を埋める目的だけで、急いで選ぶことは勧めません。[11]
比較するなら、通常の開始時期まで預金でつなぐ案、働き方を変える案、建て替えの総額や時期を調整する案と並べます。早く受け取ることの価値は健康や暮らし方にも関わるため、単純な損得年齢だけで全員に同じ答えを出すことも適切ではありません。
反対に、年金を遅く受け取る予定なら、受給までの生活費を支えられるか確認します。将来の月額が増える試算でも、その前の期間に現金が足りなければ計画は続きません。受給開始時期と住宅費を別々の資料で決めず、同じ収支表で比較する必要があります。
予定していない収入を、確定扱いにしない
再雇用やアルバイトの収入を見込む場合は、実際の雇用条件を確認します。「近所で月10万円くらい働けるだろう」という希望と、契約済みの収入は区別します。求職期間や働けない期間ができた場合、何か月分を預金で支えられるかも見ておきましょう。
失業等に関する給付も、本人の状況や手続によって対象や時期が異なります。受給の確認前に、満額を毎月の確定収入へ入れることは避けます。制度の窓口で確認した内容を反映し、確認が済むまでは未確定の項目として扱ってください。
建て替えを延期すれば収入減の時期を避けられる場合もありますが、古い家の修繕や仮の工事が増える可能性もあります。延期、規模調整、借入れの三案を比較し、総額と生活資金の両方で納得できる時期を探すことが大切です。
受給開始後の家計につながるかまで見る
つなぎ期間を乗り越えても、年金開始後に毎月赤字が続くなら、その先の貯蓄も必要です。つなぎに使う資金と、年金生活の不足を埋める資金を分け、同じ預金を両方へ割り当てていないかを確認します。住宅予算に使える残額は、この順番で決まります。
預金残高は、工事完了時だけでなく、退職直後、片方の年金開始時、夫婦の年金がそろう時点などで確認します。一番残高が少なくなる時点が分かれば、支払いを調整すべき理由を家族や担当者へ具体的に説明できます。
私は、年金が始まるまでを「何とかなる期間」として空欄にした資金計画には賛成できません。数年の差でも、毎月の不足が積み上がれば大きな金額です。その期間の生活費を守ったうえで、建て替えの広さ、仕様、契約時期を決めることを勧めます。
相談では「退職から夫婦の年金がそろうまでを月別にし、工事代金を払った後の最低残高を見せてください」と伝えましょう。老後の家づくりでは、完成後だけでなく、完成へ向かう途中の生活も守れる資金の順番が必要です。










