引渡し直前に未承認の追加請求が出たら、支払う必要がある?
A.施主が依頼も承認もしていない工事なら、住宅会社の請求額をそのまま支払う必要があるとは限りません。ただし、変更契約書に署名していなくても、口頭・LINE・メールなどで工事を依頼し、追加費用を了承していれば支払い義務が生じる可能性があります。
判断のポイントは、署名の有無だけではありません。
- 誰が追加工事を依頼したか
- 追加費用の説明があったか
- 金額を承認した証拠があるか
- そもそも当初契約に含まれる工事ではないか
- 住宅会社の設計・施工ミスによるやり直しではないか
を一項目ずつ確認します。
「工事が終わっているから全額払え」も、「署名していないから1円も払わない」も、どちらも危険な判断です。
未承認でも支払いが必要になる可能性があるケース
| 状況 | 支払いの可能性 |
|---|---|
| 施主が工事を依頼し、見積書へ署名した | 高い |
| LINEで金額を確認して「お願いします」と返信した | 高い |
| 口頭で金額を聞き、工事を依頼した | 証拠によっては高い |
| 金額未定でも、有料と理解して依頼した | 金額について争いになる可能性 |
| 施主が追加工事を依頼したが、無料だと思っていた | 説明内容・証拠による |
| 住宅会社が必要と判断して勝手に施工した | 直ちに全額支払いとは限らない |
| 当初契約に含まれる工事を「追加」と請求した | 原則として確認・反論が必要 |
| 住宅会社の施工ミスを直した | 原則として施主負担ではない可能性が高い |
| 住宅会社の設計漏れを追加工事扱いにした | 契約・説明内容による |
| 法令上必要な工事を見積もりから落としていた | 誰の責任か精査が必要 |
書面がなくても契約自体が成立する場合はあります。
例えば、営業担当者から、
カップボードを追加すると45万円です。
と説明され、施主がLINEで、
45万円でお願いします。
と返信していれば、正式な変更契約書がなくても合意の証拠になる可能性があります。
反対に、
カップボードを追加できますか?
と質問しただけなら、発注の承認とは限りません。
追加工事は本来、施工前に金額を決める
建設工事では、工事内容や請負代金を明確にした契約書面を交わすことが重要です。
国土交通省も、契約内容に不明確な点があると後日の紛争原因になるとして、民間建設工事標準請負契約約款を示しています。国土交通省「建設工事標準請負契約約款」
追加・変更工事についても、本来は着手前に次の内容を決めます。
- 変更する工事内容
- 追加金額
- 減額金額
- 税込差額
- 工期への影響
- 支払時期
- 保証範囲
- 住宅ローンへの組込み可否
建設業法でも、契約内容を変更する場合には、変更内容を書面化して相互に交付することが基本です。
したがって、引渡し直前になって初めて、
追加工事一式150万円です。
という請求書を出す管理方法には問題があります。
ただし、住宅会社が書面化を怠ったからといって、施主が実際に依頼した有料工事まで当然に無料になるわけではありません。
請求書を5つに分類する
引渡し直前に追加請求書が出たら、一括して支払うか拒否するのではなく、各項目を次の5つに分けます。
1.施主が金額を承認した工事
見積書、変更契約書、LINE、メールなどで金額を承認している工事です。
これは、原則として支払い対象になる可能性が高くなります。
2.施主が依頼したが金額を知らされていない工事
工事を頼んだ事実はあるものの、金額提示がなかったケースです。
工事の必要性や相場、住宅会社の説明内容を確認し、金額を協議することになります。
「金額を聞いていないから無料」と即断はできませんが、住宅会社の言い値をそのまま受け入れる必要もありません。
3.住宅会社が勝手に追加した工事
施主が依頼しておらず、事前説明もなかった工事です。
消費者庁も、契約した覚えのない工事が請求書に含まれている場合、合意がなければ支払い義務はないと考えられる旨を案内しています。消費者庁「工事・建築・修理の相談例」
ただし、安全上緊急に必要だった工事、契約約款上の追加対応、現場で予測できなかった工事などは個別確認が必要です。
4.当初契約に含まれている工事
契約図面、仕様書、見積書に含まれているにもかかわらず、追加費用として請求されているケースです。
例えば、
- 標準仕様のコンセント
- 契約図面に記載された収納
- 当初見積もりに含まれる仮設工事
- 完成に必要な接続部材
- 契約性能を満たすために必要な工事
であれば、二重請求になっていないか確認します。
5.住宅会社のミスを直す工事
施工ミス、発注ミス、設計漏れなど、住宅会社側の責任で必要になったやり直しです。
例えば、
- 図面と違う窓を取り付けた
- 配管位置を間違えて移設した
- 発注品番を間違えて交換した
- 必要な構造部材を見積もりから落としていた
- 契約した性能を満たすために追加施工した
という場合、施主が追加費用を負担するのが妥当なのかを確認する必要があります。
追加請求148万円が出たケース
引渡し5日前に、次の請求書が出たとします。
| 請求項目 | 金額 | 確認結果 |
|---|---|---|
| キッチングレード変更 | 35万円 | LINEで金額承認済み |
| コンセント追加 | 8万円 | 変更確認書あり |
| 地盤関連の追加工事 | 70万円 | 必要性は説明されたが金額未提示 |
| 配管位置の修正 | 20万円 | 住宅会社の施工ミス |
| 追加工事管理費 | 15万円 | 契約根拠・計算不明 |
| 合計 | 148万円 |
この場合、148万円全額を支払うか拒否するのではありません。
- 承認済み43万円:支払い対象として確認
- 地盤工事70万円:数量・単価・事前説明を確認して協議
- 配管修正20万円:住宅会社の責任として反論
- 管理費15万円:契約条項と計算根拠を確認
と分けます。
追加請求は、請求書単位ではなく工事項目単位で判断することが重要です。
まず住宅会社へ求める資料
未承認の請求が出たら、次の資料を求めてください。
- 追加工事の項目別明細
- 各工事を依頼した日時
- 依頼者と承認者の氏名
- 金額を提示した証拠
- 施主が承認した証拠
- 施工前後の写真
- 材料の品番と数量
- 職人の作業内容と人工数
- 当初見積もりとの差額
- 契約書・約款上の請求根拠
「追加工事一式」「現場対応一式」「諸経費一式」だけでは、金額が適正か判断できません。
住宅会社へ送る回答文
口頭だけで反論せず、メールや書面で記録を残します。
引渡し前に提示された追加工事請求書について、事前に見積書の提示、金額の承認および変更契約を行っていない項目が含まれているため、現時点では全額の支払いに同意できません。
各項目について、工事内容、依頼日、承認記録、数量、単価、施工前後の写真および契約上の請求根拠をご提示ください。
当初契約に基づく未払い代金および事前承認済みの追加工事代金については、契約どおり支払う予定です。未承認項目については、資料確認後に協議をお願いします。
重要なのは、正当な支払いまで拒否しているように見せないことです。
当初契約分、承認済み追加分、争っている追加分を明確に分けます。
元の最終金まで止めてよい?
未承認の追加請求があるからといって、当初契約で支払うことになっている最終金まで一方的に全額止めるのは危険です。
住宅会社から、
- 契約違反
- 支払い遅延
- 遅延損害金
- 引渡し拒否
を主張される可能性があります。
基本的には、
- 当初契約で確定している金額
- 施主が承認した追加工事代金
- 未承認で争いのある金額
を切り分け、争いのない金額は契約どおり支払う方向で対応します。
ただし、建物に重大な未完成・不具合がある場合や、契約上の同時履行関係が問題になる場合は判断が異なるため、専門家への相談が必要です。
「払わないなら鍵を渡さない」と言われたら?
当初契約の最終金を支払っていない場合、契約内容によっては住宅会社が引渡しを拒む可能性があります。
一方、根拠が明確でない未承認の追加請求まで支払わなければ引き渡さないという対応が妥当かは、個別の契約と証拠によって判断されます。
次の対応をしてください。
- 引渡し拒否の理由を書面でもらう
- どの契約条項に基づくのか確認する
- 争いのない金額は支払う意思を示す
- 未承認金額は別途協議すると伝える
- 電話・面談内容を記録する
- 引越し・ローン実行への影響を金融機関へ伝える
- 引渡し前に専門窓口へ相談する
鍵を受け取るために、やむを得ず disputed amount を支払おうとする場合は、先に弁護士などへ相談してください。何も記録せず支払うと、後から「請求を承認して支払った」と主張される可能性があります。
その場で署名してはいけない書類
引渡し時には、多くの書類へ署名します。
次のような文言がないか確認してください。
- 追加工事代金をすべて承認する
- 本工事に関して異議はない
- 精算金額に同意する
- 今後一切の請求をしない
- 建物に不具合はない
- 請負代金の最終精算を完了する
未承認請求について協議中なら、内容を確認せず署名してはいけません。
建物の受領書と、追加工事代金の承認書は本来別の問題です。1枚の書類にまとめられている場合は、未承認部分を明記してもらいます。
トラブルになった場合の相談先
住宅会社との協議で解決できない場合は、次の窓口があります。
- 住まいるダイヤル
- 消費者ホットライン「188」
- 各都道府県の建設工事紛争審査会
- 弁護士
- 建築士
- 住宅瑕疵担保責任保険法人
住宅瑕疵担保責任保険付き住宅や建設住宅性能評価書のある住宅では、住宅紛争審査会のADRを利用できる場合があります。また、建設工事の請負契約に関する紛争は、建設工事紛争審査会でも扱われています。消費者庁「住宅トラブルに関するADR」
引渡し日、住宅ローン実行日、引越し日が迫っている場合は、請求書を受け取った当日に相談してください。
未承認請求を防ぐ変更ルール
契約書には、次のようなルールを入れておくと安心です。
追加・変更工事については、工事内容、追加または減額金額、工期および支払方法を記載した変更確認書を作成し、注文者が書面または電磁的方法で承認した後に施工する。事前承認のない追加工事は、緊急に安全確保が必要な場合を除き施工しない。
さらに、住宅会社には次の運用が必要です。
- 変更のたびに差額を提示する
- LINEの依頼も正式な変更確認書へ転記する
- 増額だけでなく減額も記載する
- 毎月、変更後の最新総額を提示する
- ローンに入る金額と現金払いを分ける
- 引渡し30日前に最終精算書を出す
- 未承認工事をゼロにしてから完成検査を行う
総額表示は契約時だけではない
最初の見積もりが総額でも、契約後の変更を管理しなければ、最終金額は分からなくなります。
本当の総額表示とは、
契約時総額+承認済み追加工事-承認済み減額工事=現在の支払総額
を常に見せることです。
例えば、
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 契約時総額 | 2,200万円 |
| 承認済み追加 | +85万円 |
| 承認済み減額 | ▲20万円 |
| 現在の確定総額 | 2,265万円 |
| 未承認工事 | 0円 |
という状態を毎回確認できれば、引渡し直前の追加請求は防げます。
結論
引渡し直前に未承認の追加請求が出ても、請求書に書かれた金額を無条件で支払う必要はありません。
しかし、変更契約書がなくても、
- 施主が工事を依頼した
- 有料だと説明を受けた
- 金額を了承した
- LINEやメールに証拠が残っている
場合は、支払い義務が認められる可能性があります。
まず請求を、
- 承認済み
- 依頼したが金額未承認
- 依頼していない
- 当初契約に含まれる
- 住宅会社のミス
に分類してください。
正直な住宅会社は、工事をしてから請求書を出すのではなく、金額を提示し、施主が承認し、変更契約を交わしてから施工します。
引渡し直前の請求書は、施主の同意書ではありません。承認した工事には支払い、承認していない工事には根拠を求める。それが正しい最終精算です。










