Q. 年収だけで「無理のない住宅予算」を決めても大丈夫?
A. 大丈夫ではありません。同じ年収でも、家族構成、年齢、既存ローン、教育費、生活費、貯蓄額によって、無理なく返せる住宅予算は大きく変わります。年収から分かるのは借入可能額の目安であり、安心して返せる金額ではありません。
住宅相談で年収を伝えると、
「年収の7倍程度まで借りられます」
「この年収なら4,000万円でも問題ありません」
「月々の返済は家賃とほとんど変わりません」
と説明されることがあります。
しかし、年収だけで住宅予算を決めるのは危険です。
年収600万円の家庭が二つあっても、その家計に毎年残る金額が同じとは限りません。
- 子どもがいない共働き世帯
- 子どもが3人いる片働き世帯
- 自動車ローンがある世帯
- 親から土地の提供を受けられる世帯
- 50代で定年までの期間が短い世帯
- 20代で長期間返済できる世帯
これらを同じ住宅予算にすることはできません。
年収は家計の入口にすぎない
住宅ローン審査では、年収は重要な項目です。
しかし、実際の家計で使えるのは額面年収ではなく、税金や社会保険料を差し引いた後の手取りです。
そこからさらに、
- 食費
- 水道光熱費
- 通信費
- 保険料
- 教育費
- 自動車費
- 医療費
- 日用品費
- 娯楽費
- 貯蓄
- 住宅維持費
を支払います。
住宅ローンへ使えるのは、その残りです。
年収が同じでも、固定支出が月5万円違えば、年間60万円、35年間では単純合計2,100万円の差になります。
年収だけを見た予算提案では、この違いを反映できません。
年収600万円でも安全な予算は同じではない
例えば、どちらも世帯年収600万円の家庭だとします。
| 項目 | A世帯 | B世帯 |
|---|---|---|
| 世帯年収 | 600万円 | 600万円 |
| 子ども | なし | 3人 |
| 自動車ローン | なし | 月4万円 |
| 毎月の教育関連費 | 1万円 | 6万円 |
| 毎月の貯蓄 | 10万円 | 3万円 |
| 住宅購入年齢 | 32歳 | 48歳 |
| 定年まで | 約30年 | 約14年 |
年収だけを見れば同じ評価です。
しかし、B世帯には、自動車ローン、教育費、定年までの短さという大きな条件があります。
A世帯と同じ借入額を勧めれば、返済後半の負担が重くなる可能性があります。
住宅予算は、年収ではなく家計全体と返済期間で決めるべきです。
「年収の何倍」は便利だが、個別診断ではない
年収倍率は、住宅価格を大まかに考える入口にはなります。
例えば年収600万円に対して、
- 5倍なら3,000万円
- 6倍なら3,600万円
- 7倍なら4,200万円
- 8倍なら4,800万円
です。
しかし、倍率が一つ増えるだけで600万円変わります。
600万円を35年、年2.0%で借りたと仮定すると、毎月返済額の差は約2万円になります。
月2万円なら小さく感じるかもしれません。
しかし、年間では約24万円、35年間では返済総額に大きな差が生じます。
年収倍率は、金利、返済期間、年齢、家計支出を反映しない単純な目安です。
「年収の7倍まで大丈夫」という一言で、数百万円単位の予算を決めてはいけません。
借入額が1,000万円違うと、毎月返済はいくら変わるか
年2.0%、35年、元利均等返済、ボーナス返済なしと仮定した概算です。
| 借入額 | 毎月返済額の目安 | 年間返済額の目安 |
|---|---|---|
| 3,000万円 | 約9万9,000円 | 約119万円 |
| 3,500万円 | 約11万6,000円 | 約139万円 |
| 4,000万円 | 約13万3,000円 | 約159万円 |
| 4,500万円 | 約14万9,000円 | 約179万円 |
3,000万円と4,000万円では、毎月約3万3,000円、年間約40万円の差です。
35年間続けば、返済総額の差は元金1,000万円だけではありません。利息も加わります。
住宅会社から、
「月々3万円程度の差です」
と言われても、その差で何を失うのか考えてください。
- 子どもの教育資金
- 自動車の買替え
- 家族旅行
- 老後の積立て
- 住宅の修繕費
- 病気や失業への備え
月々の差を小さく見せる説明だけで、借入額を増やしてはいけません。
家賃と住宅ローン返済額だけを比べてはいけない
現在の家賃が10万円だから、住宅ローンも月10万円なら同じ負担とは限りません。
持ち家には、住宅ローン以外の支出があります。
- 固定資産税
- 火災保険・地震保険
- 外壁・屋根の修繕
- 防蟻処理
- 給湯器の交換
- 換気設備の交換・清掃
- キッチンやトイレの修理
- 太陽光発電設備の修理
- 庭や外構の維持
- 自治会費など
例えば、住宅の維持費として月2万円相当を積み立てるなら、
住宅ローン10万円+維持費2万円=実質月12万円
と考える必要があります。
「家賃並み」という言葉だけでは、持ち家の総負担を比較できません。
建物価格ではなく総額で予算を決める
住宅会社が提示する建物価格以外にも、さまざまな費用が発生します。
- 土地代
- 仲介手数料
- 登記費用
- 住宅ローン諸費用
- 建築確認・申請費用
- 屋外給排水工事
- 地盤改良工事
- 外構工事
- 照明・カーテン
- エアコン
- 引越し
- 家具・家電
- 火災・地震保険
- 税金
- 予備費
建物本体2,500万円でも、土地や付帯費用を加えると総額3,500万円になる可能性があります。
住宅予算は「建物にいくら使えるか」ではなく、入居までに必要な総額で決めなければなりません。
子どもの教育費は後から増える
住宅購入時に子どもが小さいと、現在の教育費だけで家計を判断しがちです。
しかし、将来は、
- 塾
- 習い事
- 部活動
- 高校
- 大学
- 一人暮らし
- 通学費
- 入学金
などの負担が増える可能性があります。
子どもが2人いれば、教育費が重なる時期と住宅ローン返済が重なります。
住宅購入時点で払えるかではなく、教育費が最大になる時期にも払えるかを確認してください。
住宅ローンは、今の家計だけで決めるものではありません。
50代は年収より完済年齢を見る
50代の住宅購入や建て替えでは、現在の年収が高くても注意が必要です。
例えば55歳で35年ローンを組むと、計算上の完済年齢は90歳です。
現在の年収が700万円あっても、60歳または65歳以降に同じ収入が続くとは限りません。
確認すべきなのは、
- 定年時のローン残高
- 退職後の収入
- 退職金の使い道
- 年金見込み額
- 老後生活費
- 医療・介護費
- 繰上返済計画
- 住宅の修繕費
です。
高年収だから借りられるという判断ではなく、収入が下がる前にどこまで返せるかを考える必要があります。
共働き収入を100%前提にしない
夫婦の収入を合算すれば、借入可能額は増える可能性があります。
しかし、35年間、現在と同じ収入が続くとは限りません。
- 出産
- 育児休業
- 時短勤務
- 転職
- 病気
- 親の介護
- 子どもの事情
- 会社の業績悪化
によって、どちらかの収入が減ることがあります。
共働き世帯では、
- 一人の収入になった場合
- 片方の収入が30%減った場合
- 育児休業が長期化した場合
の3パターンを試算してください。
現在の世帯年収を限界まで使わなければ成立しない住宅予算は、変化に弱い計画です。
変動金利は「現在の返済額」だけで判断しない
変動金利を利用すると、当初の返済額を低く見せられる場合があります。
しかし、住宅ローンは長期間続きます。
金利が変わった場合の返済額も確認する必要があります。
例えば、3,500万円を35年返済する場合の概算比較です。
| 想定金利 | 毎月返済額の目安 |
|---|---|
| 1.0% | 約9万9,000円 |
| 2.0% | 約11万6,000円 |
| 3.0% | 約13万5,000円 |
金利1.0%と3.0%では、毎月約3万6,000円の差になります。
実際の適用金利、金利変更、返済額の扱いは商品によって異なりますが、低い金利だけで予算を決めてはいけません。
金利が上がっても家計が耐えられる借入額に抑えることが重要です。
住宅会社の利益と相談者の安全予算は一致しない
建築予算が500万円上がれば、住宅会社はより大きな建物や高額な設備を提案できます。
建築金額に連動する費用を受け取る紹介会社なら、契約額が上がるほど収益が増える可能性もあります。
だからこそ、住宅会社や紹介会社が示す予算を、そのまま安全予算だと思わないことです。
住宅を販売する側が考える「契約可能額」と、相談者が考える「安全返済額」は分けなければなりません。
無理のない住宅予算を決める手順
次の順序で確認してください。
- 手取り月収を把握する
- 現在の生活費を正確に集計する
- 自動車ローンなどの借入れを整理する
- 教育費が最大になる時期を試算する
- 定年後の収入を確認する
- 毎月残したい貯蓄額を決める
- 固定資産税・保険・修繕積立てを加える
- 金利上昇時の返済額を試算する
- 入居までの総額を確認する
- 予備費を残して借入額を決める
計算結果が希望する住宅総額に届かない場合は、
- 建物面積を小さくする
- 土地予算を見直す
- 設備の優先順位を整理する
- 外構工事を段階的に行う
- 頭金を増やす時期まで待つ
- 既存借入れを完済する
- 建築時期を変更する
といった再設計が必要です。
ただし、耐震、断熱、防水など、後から直しにくい基本性能を安易に落とすべきではありません。
相談会社へ確認すべき10の質問
- 住宅予算は年収の何倍で決めていますか
- 額面収入ではなく手取りを確認しますか
- 現在の生活費を反映しますか
- 教育費が最大になる時期を試算しますか
- 自動車ローンやカード残高を確認しますか
- 固定資産税と修繕費を含めていますか
- 金利上昇後の返済額も計算しますか
- 定年時のローン残高を示しますか
- 住宅会社から受け取る費用は建築金額に連動しますか
- 借入可能額ではなく、安全に返せる金額を提示できますか
この質問に対して、
「金融機関が貸してくれるので大丈夫です」
としか答えない相談先には注意してください。
金融機関の融資承認と、将来の家計の安全は同じではありません。
結論
年収だけで「無理のない住宅予算」を決めてはいけません。
必要なのは、
- 手取り収入
- 家族構成
- 現在の支出
- 既存借入れ
- 教育費
- 定年までの年数
- 老後資金
- 住宅維持費
- 金利上昇への余力
- 将来残したい貯蓄
を含めた家計全体の確認です。
年収から計算できるのは、売る側が提案しやすい借入額です。家族を守る予算は、将来の支出まで計算しなければ決まりません。
「いくら借りられるか」から家づくりを始めるのではなく、
「毎月いくらなら、生活と貯蓄を守りながら返せるか」
から始めてください。
借入可能額を使い切らないことは、妥協ではありません。
教育費、老後資金、家族の選択肢を残すための住宅設計です。
大きな家を売る相談先ではなく、家を建てた後の生活まで守る相談先を選ぶことが重要です。
デザインハウス甲府
代表 深澤敏仁










