同じ図面の家でも、引き継ぎ工事が高くなるのはなぜ?
Q. 倒産した住宅会社の図面が残っているなら、別の住宅会社が同じ図面どおりに建てれば、同じ金額で完成できるのではありませんか?
A. 図面が同じでも、仕入価格、施工方法、協力業者、現場の状態、保証責任は同じではありません。引き継ぎ会社は、他社が途中まで施工した建物を調査し、必要に応じて直し、その後の責任まで負うため、最初から建てるより高くなりやすいのです。
図面に描かれているのは、家の形や寸法、間取り、構造、設備計画などです。
しかし、住宅価格を決めるのは図面だけではありません。
同じ図面=同じ建築費ではありません。
特に倒産後の引き継ぎ工事では、図面に書かれていない費用とリスクが発生します。
図面だけでは家の値段は決まらない
住宅の建築費は、次の条件を組み合わせて決まります。
- 使用する建材・設備のメーカーと品番
- 仕入先との価格契約
- 大工や専門業者の施工単価
- 工法と施工手順
- 現場管理の方法
- 仮設工事の内容
- 保証・検査の範囲
- 工期
- 現場までの距離や搬入条件
- 会社が見込む管理費と利益
平面図や立面図が同じでも、これらの条件が違えば見積金額も変わります。
国土交通省も、施工会社は設計図書を基に工程計画や施工図を作成し、専門工事業者を手配して、工程・品質を管理すると説明しています。つまり、図面以外の施工体制まで含めて、一つの工事価格が成り立っています。
国土交通省「CM方式活用ガイドライン」
1.倒産会社の仕入価格は引き継げない
倒産した住宅会社が、キッチンやサッシを特別価格で仕入れていたとしても、その価格を別会社が利用できるとは限りません。
住宅会社ごとに、取引しているメーカー、建材店、設備業者、年間仕入量が違います。
例えば、倒産会社の見積もりではキッチンが80万円でも、引き継ぎ会社の仕入価格では100万円になる可能性があります。
さらに、倒産会社がメーカーへ代金を払っていなければ、施主が工事代金を支払い済みでも、設備を改めて購入しなければならないことがあります。
2.倒産会社の職人をそのまま使えるとは限らない
図面が同じでも、施工する大工や設備業者が変われば、工事単価も変わります。
倒産会社の下請業者に未払いがある場合、同じ現場へ戻ることを拒否される可能性もあります。
引き継ぎ会社は、自社が普段依頼している職人を新しく手配します。
途中まで別の施工方法で進んだ現場へ対応するため、作業確認や調整に通常より時間がかかります。
3.途中からの工事は作業効率が悪い
住宅会社は通常、着工から完成までの工程を一つの流れで組みます。
ところが、途中で工事が止まると、
- 現場を再確認する
- 残っている材料を分類する
- 不足材料を洗い出す
- 工事手順を組み直す
- 新しい職人へ施工内容を説明する
- 完成済み部分を傷つけないように作業する
という作業が加わります。
最初から自社で建てる場合には不要だった人件費と管理費です。
4.図面どおり施工されているとは限らない
図面が残っていても、実際の現場が図面どおりとは限りません。
引き継ぎ会社は、次の項目を確認します。
- 基礎の位置・寸法・アンカーボルト
- 柱・梁・耐力壁
- 構造金物
- 防水処理
- 断熱材
- 配管・配線
- 窓や設備の開口位置
図面と現場が違えば、図面を修正するか、現場を直さなければなりません。
壁や床で隠れている部分は、一度解体して確認する場合もあります。
5.既施工部分の責任を負うことになる
引き継ぎ会社が最も警戒するのは、他社が施工した部分の不具合です。
例えば、倒産会社が施工した基礎に問題があり、引き渡し後にひび割れや傾きが発生した場合、施主は引き継ぎ会社へ対応を求める可能性があります。
そのため、引き継ぎ会社は、
- 第三者検査
- 構造部分の再確認
- 一部解体
- 必要な補強
- 保証範囲の明確化
を行います。
引き継ぎ工事が高いのは、残りの工事をするからだけではありません。他社が施工した部分のリスクまで調べる必要があるからです。
6.足場や仮設設備を契約し直す
現場に足場や仮設トイレが残っていても、それは倒産会社がリース契約していた可能性があります。
引き継ぎ会社は、
- 既存足場の点検
- 足場の組み替え
- 仮設トイレの再契約
- 仮設電気・水道の再手続き
- 建設機械の再手配
- 現場保険への再加入
などを行います。
JIOの完成サポートでも、工事引き継ぎ時に発生する追加費用として、足場の組み替えなどの手戻り工事や、建設機械のリース再契約を挙げています。
JIO「完成サポート制度」
7.申請書類や施工データが不足している
建築確認済証があっても、工事を完成させるためには多くの資料が必要です。
- 構造計算書
- 省エネ計算書
- 長期優良住宅申請書
- 施工図
- 設備図
- 地盤調査・地盤改良記録
- 基礎配筋写真
- 工事検査記録
- 使用材料の証明書
- 打ち合わせ記録
これらが倒産会社から回収できなければ、再調査や再作成が必要になります。
図面が1枚残っていても、家づくりに必要な情報がすべて残っているとは限りません。
8.価格上昇分も引き継がれる
元の契約から時間が経っていれば、木材、設備、断熱材、外壁材、人件費などが値上がりしている可能性があります。
倒産会社との契約価格は、過去の時点で決められた価格です。
引き継ぎ会社は、工事を再開する時点の価格で材料と職人を手配するため、同じ図面でも見積金額が上がることがあります。
金額が増える計算例
元の住宅会社が最初から施工していれば、残工事が1,000万円だったとします。
引き継ぎ会社では、次の費用が加わる可能性があります。
| 項目 | 計算例 |
|---|---|
| 元の残工事相当額 | 1,000万円 |
| 現場調査・第三者検査 | 30万円 |
| 足場・仮設設備の再契約 | 40万円 |
| 不具合部分の手直し | 80万円 |
| 材料・設備の価格差 | 70万円 |
| 図面・申請の再作成 | 30万円 |
| 追加の現場管理費 | 50万円 |
| 引き継ぎ後の工事費合計 | 1,300万円 |
この例では、図面が同じでも300万円高くなります。
これは相場を示すものではなく、引き継ぎ工事で費用が増える仕組みを示した計算例です。現場状態が悪ければ、さらに高くなる可能性があります。
「高いから便乗値上げ」とは限らない
倒産後、引き継ぎ会社の見積もりを見て、「同じ図面なのに高すぎる」と感じる施主もいます。
もちろん、見積内容の確認や複数社での比較は必要です。
しかし、通常の新築価格と、途中工事を引き継ぐ価格を単純に比較することはできません。
引き継ぎ会社が負うのは、残りの工事だけではないからです。
- 他社施工部分の調査
- 不具合の発見
- 手直し工事
- 書類の再作成
- 職人と資材の再手配
- 完成後の保証責任
ここまで含めて見積もる必要があります。
引き継ぎ見積もりで比較する項目
金額だけでなく、次の内容を確認してください。
- 既施工部分の調査範囲
- 手直しが必要な箇所
- 使用できる資材と再発注する資材
- 図面・申請書類の再作成範囲
- 足場・仮設設備の再契約費
- 既施工部分の保証範囲
- 追加費用が発生する条件
- 完成予定日
- 完成保証から補填される金額
- 引き渡し後のアフターサービス
単に一番安い会社ではなく、どこまで調べ、直し、保証してくれる見積もりなのかで判断する必要があります。
デザインハウス甲府からのアドバイス
住宅会社へ契約前に、次の質問をしてください。
「御社が倒産した場合、図面・構造計算・検査記録は施主へ渡されますか?」
「別会社が引き継ぐ場合の追加費用は、完成保証でいくらまで補填されますか?」
「既施工部分に問題があった場合、その補修費も対象ですか?」
デザインハウス甲府では、全棟に完成保証を付け、図面・構造計算・性能資料を整備したうえで工事を進めています。
家づくりで残すべきなのは、平面図だけではありません。
構造、仕様、施工記録、検査結果、保証までそろって、初めて他社へ引き継げる家になります。
同じ図面でも高くなるのは、家の形を再現する費用ではなく、途中から責任を引き受ける費用が加わるからです。










