Q. 借りられる金額と、返せる金額はなぜ違う?
A. 金融機関が示す「借りられる金額」は、一定の審査基準で融資可能と判断した上限の目安です。一方、「返せる金額」は、教育費、老後資金、住宅の維持費、収入減少などがあっても、家族の生活を守りながら返済を続けられる金額です。判断する目的が違うため、同じ金額にはなりません。
住宅ローンの事前審査で4,000万円の承認が出ると、
「銀行が4,000万円まで貸してくれるなら、4,000万円の家を建てても大丈夫」
と思うかもしれません。
住宅会社からも、
「融資承認が出ていますから問題ありません」
「せっかく借りられるなら、希望を削らないほうがよいですよ」
と提案されることがあります。
しかし、金融機関が融資できると判断したことと、家族が35年間安心して返済できることは同じではありません。
借入可能額は金融機関の判断です。返済可能額は家族の生活設計から決めるものです。
金融機関は家族の夢を審査しているわけではない
金融機関は、住宅ローン審査で主に次のような項目を確認します。
- 年収
- 年齢
- 勤務先
- 勤続年数
- 雇用形態
- 他の借入れ
- 返済負担率
- 信用情報
- 自己資金
- 物件の担保評価
- 返済期間
- 健康状態や団体信用生命保険
これらは、融資した資金を返してもらえる可能性を判断するための情報です。
しかし、金融機関が家庭ごとのすべての将来計画を確認するわけではありません。
例えば、
- 子どもを私立大学へ進学させたい
- 10年ごとに自動車を買い替えたい
- 毎年家族旅行へ行きたい
- 親の介護費用が必要になる
- 60歳で退職したい
- 老後資金を2,000万円残したい
- 子どもの結婚や独立を支援したい
といった希望まで完全に反映して、融資上限を決めるわけではありません。
融資承認は、その家庭が望む生活を守れるという保証ではないのです。
「返せる」には二つの意味がある
住宅ローンを返せるという言葉には、二つの意味があります。
一つは、
返済日に住宅ローンを支払えること。
もう一つは、
生活、教育、貯蓄、老後を犠牲にせず返済できること。
毎月の返済日にお金を用意できても、
- 貯蓄がほとんどできない
- 子どもの進学を諦める
- 自動車を買い替えられない
- 住宅の修繕を先送りする
- 老後資金が残らない
- 急な病気や失業に対応できない
のであれば、本当に無理なく返せているとは言えません。
住宅ローンを支払うためだけに生活する状態を、「返せる金額」と考えてはいけません。
500万円の借入差を軽く見ない
年2.0%、35年、元利均等返済、ボーナス返済なしと仮定した概算です。
| 借入額 | 毎月返済額の目安 | 年間返済額の目安 |
|---|---|---|
| 3,000万円 | 約9万9,000円 | 約119万円 |
| 3,500万円 | 約11万6,000円 | 約139万円 |
| 4,000万円 | 約13万3,000円 | 約159万円 |
| 4,500万円 | 約14万9,000円 | 約179万円 |
500万円の差は、毎月約1万6,000円から1万7,000円です。
住宅会社から見ると、
「月々1万7,000円で希望の設備を実現できます」
という提案ができます。
しかし、年間では約20万円です。
10年間なら約200万円です。
その金額があれば、
- 固定資産税
- 火災・地震保険
- 給湯器の交換
- 自動車の車検や税金
- 子どもの入学費用
- 住宅の修繕積立て
へ備えることができます。
月額表示だけを見ると小さく感じますが、長期間の総額で考える必要があります。
住宅ローン以外にも住宅費は続く
毎月返済額が12万円なら、住宅費も月12万円と思ってはいけません。
持ち家には、住宅ローン以外の費用があります。
- 固定資産税
- 火災保険・地震保険
- 外壁・屋根のメンテナンス
- 防蟻工事
- 給湯器の交換
- 換気設備の清掃・交換
- キッチン・トイレの修理
- 太陽光発電設備の修理
- 庭・外構の維持
- 突発的な不具合
住宅ローンが月12万円、維持費の積立てが月2万円なら、実質的な住宅負担は月14万円です。
さらに固定資産税や保険料を別に支払います。
住宅ローン返済額だけで家計を判定すると、完成後に余裕がなくなる可能性があります。
ボーナスを前提にすると家計が弱くなる
ボーナス返済を設定すると、毎月の返済額を低く見せられます。
例えば、
「月々8万円、ボーナス時に各15万円」
という返済なら、月8万円だけを広告で強く見せることができます。
しかし、年間では、
月8万円×12か月+15万円×年2回=126万円
です。
月平均に直せば10万5,000円になります。
ボーナスは会社業績や勤務状況によって減る可能性があります。
生活の安全性を重視するなら、ボーナスを返済の前提にせず、毎月の収入だけで返済できる計画にしたほうが安心です。
ボーナスは繰上返済や貯蓄へ使える余力として考えるべきです。
共働き収入が続く前提にも注意
夫婦の収入を合算すれば、借入可能額を増やせる場合があります。
しかし、現在の世帯年収が35年間続く保証はありません。
例えば、
- 出産・育児休業
- 時短勤務
- 転職
- 病気
- 親の介護
- 子どもの事情
- 会社の業績悪化
- 離婚や別居
によって、収入が変わる可能性があります。
夫婦二人の収入を限界まで使わなければ返せない借入額は、生活変化に弱い計画です。
少なくとも、
- 現在の世帯収入
- 片方の収入が30%減った場合
- 一時的に一人の収入になった場合
の3パターンを試算する必要があります。
金利が変われば「返せる金額」も変わる
変動金利を利用する場合、現在の低い返済額だけで借入額を決めてはいけません。
例えば3,500万円を35年返済する場合の単純な概算比較です。
| 想定金利 | 毎月返済額の目安 |
|---|---|
| 1.0% | 約9万9,000円 |
| 2.0% | 約11万6,000円 |
| 3.0% | 約13万5,000円 |
1.0%と3.0%では、毎月約3万6,000円の差です。
実際の金利変更や返済額の計算方法は住宅ローン商品によって異なります。
しかし、金利上昇時に家計が耐えられるかを確認する必要があります。
現在の金利で借りられる上限ではなく、上昇後も返せる範囲で予算を決めるべきです。
住宅会社は予算を使い切る提案ができる
住宅会社へ、
「事前審査で4,000万円まで承認されました」
と伝えると、4,000万円に近い計画を提案される可能性があります。
- 建物面積を広げる
- 設備を上位商品にする
- 太陽光や蓄電池を追加する
- 外構工事を充実させる
- 土地予算を増やす
これらが家族に必要なら、採用する価値があります。
しかし、「借りられるから使う」という理由だけで予算を増やすべきではありません。
住宅会社にとっての予算上限は売上の上限になり得ます。
紹介会社の収益が建築金額に連動するなら、契約額が上がるほど収益が増える可能性もあります。
だからこそ、借入可能額を住宅会社へ伝える前に、自分たちの安全予算を決める必要があります。
返せる金額は、先に残すお金から決める
住宅ローンの返済額を先に決め、残ったお金で生活する方法は危険です。
先に守る金額を決めてください。
例えば、毎月の手取りが40万円なら、次のように考えます。
| 項目 | 月額の例 |
|---|---|
| 生活費 | 20万円 |
| 教育・自動車費 | 5万円 |
| 将来の貯蓄 | 5万円 |
| 住宅維持費の積立て | 2万円 |
| 予備費 | 1万円 |
| 住宅ローンへ使える額 | 7万円 |
これは一例であり、実際の金額は家庭によって異なります。
重要なのは、
手取り収入-必要生活費-将来貯蓄-住宅維持費-予備費
を計算し、その残りから返済額を決めることです。
住宅会社が提示した返済額に、家計を合わせるのではありません。
返済余力を残す
無理のない住宅ローンには、余白が必要です。
例えば、現在なら月12万円払える家計でも、返済額を月10万円に抑えれば、月2万円の余力が残ります。
年間24万円。
10年間で240万円です。
この余力は、
- 金利上昇
- 収入減少
- 教育費の増加
- 修繕費
- 医療費
- 自動車の故障
への備えになります。
最初から限界まで借りると、予想外の支出が一つ発生しただけで家計が苦しくなります。
借りられる金額より少なく借りることは、損ではありません。
将来の選択肢を買うことです。
借入可能額から差し引くべき金額
事前審査で4,000万円の承認が出ても、そのまま4,000万円を住宅予算にしないでください。
次の不足額を差し引きます。
- 教育費準備の不足
- 老後資金準備の不足
- 生活予備資金の不足
- 自動車買替え資金の不足
- 住宅修繕積立ての不足
- 金利上昇時の返済増加分
- 定年後に残るローン
- 収入減少への備え
これらを確認した結果、安全な借入額が3,200万円になるなら、4,000万円との差額800万円は「借りられるが借りないお金」です。
この800万円が、家族の将来を守る余白になります。
相談先へ確認すべき10の質問
- 提示された金額は借入可能額ですか、返済可能額ですか
- 返済可能額をどのように計算しましたか
- 手取り収入を基準にしていますか
- 教育費と老後資金を反映していますか
- 固定資産税と修繕費を含めていますか
- ボーナスがなくても返済できますか
- 片方の収入が減った場合も試算しましたか
- 金利が上がった場合の返済額はいくらですか
- 定年時にローンはいくら残りますか
- 毎月いくら貯蓄へ残せますか
これらに答えず、
「事前審査が通っているので大丈夫です」
という説明だけなら、それは融資の話であり、家計の安全診断ではありません。
結論
借りられる金額と返せる金額が違うのは、判断する目的が違うからです。
金融機関は、一定の審査基準に基づいて融資可能額を判断します。
家族は、その返済をしながら、
- 生活する
- 子どもを育てる
- 自動車を維持する
- 住宅を修繕する
- 老後資金を残す
- 予想外の支出へ備える
必要があります。
借りられる上限は、家族が使ってよい上限ではありません。
住宅ローンの承認額を見てから家を大きくするのではなく、守りたい生活と貯蓄を先に決めてください。
その残りで返せる金額が、本当の住宅予算です。
大きな融資承認を喜ばせる相談先ではなく、承認額より少なく借りる選択まで提案できる相談先を選ぶことが重要です。
デザインハウス甲府
代表 深澤敏仁










