階段の勾配(傾斜)を緩やかにする設計基準と、手すりの正しい設置位置。
こんなご相談をいただきました
「平屋ではなく2階建てへ建替える予定です。老後も安全に使えるよう、階段を緩やかにしたいのですが、どのくらいの寸法がよいでしょうか?」
A. 建築基準法の最低寸法を満たすだけでは、シニアに使いやすい階段とはいえません。蹴上げを17~18cm程度、踏面を24~27cm程度とし、可能であれば両側へ連続した手すりを設けることをおすすめします。
法律上の最低基準は「使いやすさ」の基準ではない
一般的な住宅階段における法律上の最低基準は、主に次のとおりです。
- 階段・踊り場の幅:75cm以上
- 蹴上げ:23cm以下
- 踏面:15cm以上
しかし、蹴上げ23cm、踏面15cmの階段はかなり急です。若い人でも上り下りしにくく、足腰が弱くなったシニアには転倒リスクがあります。
法律の基準は、建築できる最低条件です。
毎日安全に使える寸法とは別に考える必要があります。
蹴上げ・踏面とは?
階段の使いやすさは、主に次の2つの寸法で決まります。
- 蹴上げ:一段の高さ
- 踏面:足を載せる部分の奥行き
蹴上げが高いと、膝や股関節への負担が増えます。踏面が狭いと、足裏全体を載せにくく、下りるときに足を踏み外しやすくなります。
シニア住宅では、次の範囲を目安に検討します。
| 項目 | 検討したい寸法 |
|---|---|
| 蹴上げ | 約17~18cm |
| 踏面 | 約24~27cm |
| 有効幅 | 約80~90cm |
| 手すり高さ | 段鼻から約75~80cm |
例えば、蹴上げ17.5cm、踏面25cmなら、
「踏面25cm+蹴上げ17.5cm×2=60cm」
となり、上り下りしやすいバランスの一例になります。
国土交通省の長寿社会対応住宅設計指針でも、踏面と蹴上げの関係や、急勾配・回り階段を避ける考え方が示されています。国土交通省「長寿社会対応住宅設計指針」
緩やかな階段には面積が必要
階段を緩やかにすると段数が増え、必要な水平距離も長くなります。
例えば、1階から2階までの高さが約2.8mの場合、
- 蹴上げ20cm:約14段
- 蹴上げ17.5cm:約16段
となります。
さらに踏面を広げるため、急な階段より50cm~1m程度長いスペースが必要になる場合があります。
間取り完成後に「階段だけ緩くしてください」と依頼しても、リビングや収納を削らなければ変更できないことがあります。
階段の安全性は、間取りの初期段階で決めてください。
回り階段はできるだけ避ける
踊り場部分を三角形の段にした回り階段は、階段面積を小さくできます。
しかし、内側と外側で踏面の幅が違うため、足を置く位置によっては非常に狭くなります。夜間や急いでいるとき、介助しながら下りるときには危険です。
シニア住宅では、次の順で検討します。
- 十分な奥行きがある踊り場付き階段
- 緩やかな直階段
- 三角段を極力減らした折返し階段
直階段は足の置き場が一定ですが、転倒すると下まで落ちる危険があります。階段が長くなる場合は、途中に平らな踊り場を設けた方が安全です。
手すりは片側だけでよいのか?
法律上は片側の手すりで成立する住宅もありますが、シニア住宅では可能な限り両側への設置をおすすめします。
人によって、力を入れやすい手は異なります。また、上りと下りでは使いやすい側が逆になることがあります。
手すりの設計では、次の点を確認します。
- 段鼻から約75~80cmの高さ
- 階段の途中で切らず連続させる
- 上下の端で身体を支えられる長さを確保する
- 握りやすい太さと形状にする
- 壁との間に指が入る隙間を確保する
- 手すりの端部を壁側へ戻し、衣服を引っ掛けない
- 将来反対側にも追加できるよう下地を入れる
国土交通省の指針では、階段手すりの高さは段鼻から75cmが標準とされています。
手すりだけでは転倒を防げない
安全な階段には、手すり以外の対策も必要です。
段鼻を出しすぎない
踏面の先端が大きく突き出していると、上るときにつま先を引っ掛けます。段鼻の出を小さくし、蹴込み板を設けます。
段差を見分けやすくする
床、蹴込み板、段鼻がすべて同じ色だと、視力が低下したときに段差が分かりにくくなります。
派手な模様ではなく、段鼻が認識できる程度の色の差を付けます。
滑り止めを突出させない
後付けの滑り止めが踏面から出ていると、かえってつまずく原因になります。表面と段差の少ない仕様を選びます。
足元を明るくする
階段の上下から操作できる三路スイッチ、人感センサー、足元灯を設けます。
ただし、強い光が直接目に入ると段差が見えにくくなるため、踏面を均等に照らす配置が必要です。
階段下と階段上の動線にも注意
階段だけが安全でも、降りた直後にドアや家具があれば転倒につながります。
- 最下段を廊下へ突出させない
- 階段を下りた正面に開き戸を設けない
- 階段上部の近くへトイレのドアを設けない
- 階段前に十分な平場を確保する
- 夜間に寝室からトイレへ行く動線へ階段を入れない
特に、寝室が2階でトイレが1階という間取りは、老後の夜間移動に向きません。
1階だけで生活できる間取りを優先する
どれだけ緩やかな階段でも、車椅子生活になれば日常利用は難しくなります。
2階建てにする場合でも、1階に次の空間を配置しておくと安心です。
- 将来寝室にできる部屋
- トイレ
- 洗面脱衣室
- 浴室
- キッチン
- 洗濯・物干しスペース
普段はリビング横の洋室や客間として使い、将来は寝室に変更できる計画が現実的です。
階段を安全にすることと、階段を使わなくても暮らせることを同時に考えてください。
デザインハウス甲府からのアドバイス
住宅会社から「基準を満たしているので安全です」と説明されても、蹴上げと踏面の実寸を確認してください。
図面では、少なくとも次の5点を数字で確認します。
- 蹴上げの高さ
- 踏面の奥行き
- 段数
- 有効幅
- 手すりの位置
モデルハウスで階段を確認するときは、上るだけでなく、下りるときの足元を見てください。階段事故は、下りるときの方が大きなけがにつながりやすいからです。
法令に通る階段ではなく、10年後、20年後も自分の足で安全に下りられる階段をつくる。これがシニアの2階建てで優先すべき設計基準です。










