その可能性はあります。子どもが使う予定もなく、売却や賃貸の見通しも立たない家を残すと、相続する人が税、管理、片付け、修繕、処分の手間を引き受けることになります。親が安く建てられた家でも、子どもにとって負担の少ない財産とは限りません。
ただし、9坪の家だから価値がないということでもありません。立地や土地、建物の状態によっては、使いたい人がいる可能性があります。大切なのは「家を残すことが親の務め」と決めつけず、子どもが使えるか、手放せるか、管理できるかを元気なうちに確認することです。
相続する家の価値は管理する人の事情で変わる
子どもが近くに住み、利用の予定があれば、管理しながら残す選択もしやすくなります。一方、遠方で仕事や子育てをしていれば、換気、草刈り、故障の確認のために通うだけでも負担です。家が小さいことより、誰がどこから管理に来るのかが費用を左右する場合があります。
仮に税、保険、見回りや庭の管理で年15万円かかり、十年間使い手が決まらなければ150万円です。ここへ片付け、修繕、交通費などが別に加わることもあります。数字は相場ではなく、売れないまま持つ時間にも支出が続くという計算例です。
親が住んでいる間には見えにくい問題もあります。近所へ声を掛けられる人がいなくなる、設備の扱いが分からなくなる、書類の場所が分からないといったことです。建物だけでなく、管理に必要な情報を渡せるかまで考えておきます。
家を受け継ぐ子どもが複数いる場合、近くに住む一人が現地対応をし、ほかの人は費用だけを見ているという状態も起こり得ます。実際の管理作業とお金の負担を分けて記録し、誰が何を担えるかを確認します。小さな家だから手間も少ないはずと決めつけず、現地に行く時間や急な修理の手配も負担として考えてください。
使う予定がないなら売れる条件を調べておく
子どもへ「将来はこの家に戻るか」と聞く際には、戻ると答えてほしい気持ちを押しつけないことです。勤務先や家族、生活の拠点が違えば、使わないという判断も自然です。家を使わないと分かったことは、処分を考えるための重要な情報になります。
そのうえで、住宅として売る案、土地として売る案、貸す案を地元の仲介会社へ相談します。実際の面積、道路、境界、修繕状況を見せて、価格だけでなく期間と必要な費用を聞きます。「小さいから簡単に売れる」「土地は必ず値段が付く」といった言葉だけでは足りません。
将来の価格は保証できませんが、現時点での弱点は調べられます。境界が不明、図面が見つからない、設備に不具合があるなど、親が事情を知っているうちに整理したほうが進めやすいことがあります。子どもがゼロから調査する状態を残さないことです。
子どもの返事が今は決められないという場合でも、情報をまとめることは進められます。固定資産税の通知、保険、修繕見積もり、査定などがあれば、将来の判断を始めやすくなります。売却する意思が固まるまで何もしないのではなく、家の状況を説明できる資料を整えることから取りかかりましょう。
家だけを相続放棄することはできない
相続放棄は、その家だけを選んで断る手続ではありません。裁判所の案内では、亡くなった人の権利や義務を一切受け継がない選択として説明されています。預貯金は受け取り、負担の大きい家だけを放棄する、という単純な使い方はできません。(出典:裁判所 相続の放棄の申述)
原則として、自分のために相続が始まったことを知ってから三か月以内という手続上の期間も関わります。財産や負債が分からない場合の期間伸長などを含め、必要に応じて法律専門家へ早めに相談します。「困ったら相続放棄すればよい」と親の側で結論を出しておかないことです。
家を売る、貸す、片づけるといった行為を、相続の判断が固まらないまま進めることにも注意が要ります。どの財産をどう扱えるかは状況によるため、相続放棄を検討する場合は、先に専門家へ相談します。相続人へ判断を丸投げしない準備が大切です。
国へ渡せばよいという説明にも条件がある
相続土地国庫帰属制度は、どんな家と土地でも引き取ってもらえる制度ではありません。法務省は、建物がある土地などを申請できない土地の要件として示しています。建物を残したまま国へ渡すつもりで、家の処分計画を立てることはできません。(出典:法務省 相続土地国庫帰属制度で引き取ることができない土地)
さらに対象者や土地の状態についての要件、審査、負担金などが関わります。解体すれば必ず利用できるという話でもありません。境界や権利関係などを整理し、制度を検討する段階で法務局へ相談してください。所有する負担を減らすためにも、費用を伴うことを理解する必要があります。(出典:法務省 相続土地国庫帰属制度の概要)
家と一緒に処分のためのお金と情報を残す
すぐに売却しない場合でも、登記の情報、図面、修繕履歴、税や保険、ローン、設備の取扱い、相談先を一か所へまとめます。鍵や契約書の場所が分かれば、管理を引き継ぎやすくなります。誰も把握していない共有持分や契約がないかも、早めに整理してください。
現金の準備も考えます。家財の処分や測量、解体などが必要になれば、売却代金を受け取るより先に支払う場合があります。「売れば費用は出るはず」とせず、どの費用をどこから払うかを確認します。建物を立派にするために貯蓄を使い切るより、手放すための資金を残す意味があります。
遺言や名義の整理を検討する場合も、税や他の相続人の権利を含めて専門家へ相談します。単に子どもの一人へ名義を寄せれば解決するわけではありません。その人が管理できるか、費用を負担できるかまで話し合い、家を引き受ける人だけに負担が集中しないようにします。
親が元気な間に出口を一度決めてみる
家族で話すときは「家を残したいか」だけでなく、「使わない場合はいつ売るか」「いくらまで管理費を出すか」「誰へ相談するか」を確認します。将来状況が変われば見直して構いません。何も決めずに残すより、最初の動き方が分かっているほうが子どもの負担を減らせます。
終の棲家は、自分が暮らす間の快適さと、その後の扱いやすさの両方で考えます。小さく建てたこと自体が失敗とは限りません。しかし、使わない家を手放す準備までしておかなければ、親の節約が子どもの持ち出しへ変わることがあります。残すものを、建物の有無だけで判断しないことです。
親が施設への入居などで家を離れた場合に、いつから売却や賃貸を検討するかも話しておきます。戻る可能性や本人の意思を確かめながら、空き家の期間だけが延びないようにするためです。家を残すか手放すかの二択だけでなく、どの出来事をきっかけに家族で判断し直すかを決めておくと、先延ばしを減らせます。










