Q. なぜ住宅営業は月々返済額で話すのか?
A. 住宅価格や借入総額より、家を安く感じてもらいやすいからです
住宅会社へ行くと、次のような説明を受けることがあります。
- 月々7万円台で建てられます
- 今の家賃とほとんど変わりません
- 太陽光の売電を考えれば実質6万円台です
- 返済期間を延ばせば予算内です
- 収入合算すれば希望の家が建てられます
3,500万円の住宅ローンと言われると、「高い」と感じます。
しかし、「月々7万円台」と言われると、「今の家賃と変わらないから払えるかもしれない」と感じやすくなります。
月々返済額を確認すること自体は必要です。
問題は、その月額がどの条件で計算され、最終的にいくら支払うことになるのかが説明されていないことです。
返済期間を長くし、低い変動金利を使い、ボーナス払いを設定すれば、月々返済額は小さく見せられます。
しかし、高すぎる家が安くなったわけではありません。
支払いを将来へ先送りしているだけです。
月々返済額は家の価格ではない
例えば、3,200万円の住宅ローンを借りるとします。
金利1.5%、元利均等、ボーナス払いなしの単純比較では、次のようになります。
| 返済期間 | 毎月返済額 | 総返済額 | 支払利息 |
|---|---|---|---|
| 35年 | 約9万8,000円 | 約4,115万円 | 約915万円 |
| 50年 | 約7万6,000円 | 約4,549万円 | 約1,349万円 |
50年返済にすると、毎月の支払いは約2万2,000円下がります。
そのため、広告では「月々7万円台」と表示できます。
しかし、返済期間は15年延び、支払利息は約434万円増えます。
35歳で50年ローンを組めば、完済は85歳です。
月々7万円台という数字だけでは、次の重要な事実が見えません。
- 借入額は3,200万円
- 返済は50年間
- 総返済額は約4,549万円
- 支払利息は約1,349万円
- 完済時は85歳
月々返済額が下がっても、家の価格や借入元金が減ったわけではありません。
なぜ住宅営業は月額を強調するのか?
住宅営業の目的は、お客様に「この家なら買える」と感じてもらうことです。
総額3,500万円と言えば、予算を超えていると判断されるかもしれません。
しかし、
「あと月々1万円で希望のキッチンにできます」
「返済期間を延ばせば月々8万円台です」
と説明すれば、心理的な負担を小さくできます。
例えば500万円の増額も、金利1.5%、35年返済なら毎月約1万5,300円です。
「月々1万5,000円なら払えそう」と感じるかもしれません。
しかし、総返済額は約643万円です。
月額へ置き換えると小さく感じますが、実際には将来の収入から約643万円を支払います。
住宅営業が月額を使うのは、総額より契約への心理的な抵抗を下げやすいからです。
「家賃と同じ」は本当なのか?
現在の家賃が8万円で、住宅ローンも8万円なら、住居費は変わらないように感じます。
しかし、賃貸の家賃と住宅ローン返済額だけを比較することはできません。
持ち家では、住宅ローン以外にも次の費用が必要です。
- 固定資産税
- 火災・地震保険
- 外壁や屋根の修繕
- 給湯器の交換
- 太陽光発電設備の交換
- 水回り設備の修理
- シロアリ対策
- 庭や外構の維持
例えば、次のように積み立てるとします。
| 住居費 | 月平均の例 |
|---|---|
| 住宅ローン | 7万6,000円 |
| 固定資産税積立 | 1万円 |
| 火災・地震保険積立 | 3,000円 |
| 将来の修繕積立 | 1万5,000円 |
| 実質的な住居費 | 約10万4,000円 |
広告では月々7万6,000円でも、持ち家を維持するための実質的な負担は月約10万4,000円という考え方になります。
金額は建物、地域、保険、修繕計画によって異なります。
大切なのは、住宅ローンだけを住居費だと考えないことです。
「月々7万円台」の計算条件を確認する
広告や営業説明で月々返済額を示されたら、次の条件を確認してください。
- 建物だけの借入か
- 土地代も含まれているか
- 付帯工事を含むか
- 外構を含むか
- 諸費用を含むか
- 頭金はいくらか
- ボーナス払いはあるか
- 金利は何%か
- 変動金利か固定金利か
- 返済期間は何年か
- 完済年齢は何歳か
- 金利上昇時はいくらになるか
例えば「月々7万円台」という広告でも、次のような条件かもしれません。
- 土地代を含まない
- 頭金300万円
- ボーナス払い年20万円
- 50年返済
- 最も低い変動金利を使用
- 付帯工事・外構・諸費用は別
自分たちの条件で同じ返済額になるとは限りません。
小さく書かれた計算条件まで確認してください。
返済期間を延ばせば予算内になるのか?
見積もりが予算を超えたとき、住宅価格を下げず、返済期間を40年、45年、50年へ延ばす提案があります。
確かに毎月返済額は下がります。
しかし、予算オーバーが解決したわけではありません。
本来3,000万円までに抑えるべき家を3,500万円で契約し、返済期間を延ばして月額だけを合わせても、借入額は500万円多いままです。
さらに返済期間が長いほど、
- 支払利息が増える
- 老後まで返済が続く
- 住宅の修繕時期とローン返済が重なる
- 定年後の収入減少に対応しにくい
- 売却時にローン残高が多く残りやすい
という問題があります。
住宅金融支援機構の2026年調査では、実際に利用した返済期間は「30年超~35年以内」が38.9%で最も多い結果でした。住宅金融支援機構「住宅ローン利用者調査」
50年ローンが使えることと、50年ローンが家族にとって安全であることは別です。
35年と50年では完済年齢が違う
同じ35歳で住宅ローンを組んだ場合を比較します。
| 返済期間 | 完済年齢 |
|---|---|
| 35年 | 70歳 |
| 40年 | 75歳 |
| 45年 | 80歳 |
| 50年 | 85歳 |
50年ローンでは、年金生活に入ってからも20年前後返済が続く可能性があります。
その頃には、住宅ローンだけでなく、次の支出も発生します。
- 外壁や屋根の修繕
- 給湯器の交換
- 水回りの改修
- 医療費
- 介護費
- 車の買い替え
- 老後生活費
「将来、繰上返済すればよい」という説明もあります。
しかし、教育費、物価、収入、健康状態がどうなるかは分かりません。
繰上返済しなければ成立しない計画ではなく、繰上返済できなくても生活を維持できる計画にするべきです。
ボーナス払いで月額を小さく見せる
月々返済額を下げる方法として、ボーナス払いを組み込むことがあります。
例えば、毎月7万5,000円と表示されていても、年2回15万円ずつのボーナスス払いがあれば、年間返済額は次のようになります。
7万5,000円×12か月+15万円×2回=120万円
年間120万円を12か月で割れば、実質的な月平均は10万円です。
広告では7万5,000円でも、年間で見れば月平均10万円を返済しています。
さらにボーナスは、毎年必ず同じ金額が支給されるとは限りません。
- 会社の業績悪化
- 転職
- 休職
- 育児
- 介護
- 病気
によって減る可能性があります。
住宅ローンは、原則として毎月の収入だけで返せる計画をおすすめします。
低い変動金利だけで計算する危険
月々返済額を小さく見せるため、低い変動金利でシミュレーションすることがあります。
しかし、変動金利は将来変わる可能性があります。
例えば3,500万円、35年、元利均等、ボーナス払いなしの単純比較では、次のようになります。
| 金利 | 毎月返済額 | 総返済額 |
|---|---|---|
| 1.5% | 約10万7,000円 | 約4,500万円 |
| 2.0% | 約11万6,000円 | 約4,870万円 |
| 2.5% | 約12万5,000円 | 約5,255万円 |
| 3.0% | 約13万5,000円 | 約5,657万円 |
金利1.5%と3.0%では、毎月約2万8,000円、総返済額で約1,157万円の差になります。
実際の変動金利商品の返済額は、金利の変更時期、返済時点の残高、金融機関の返済額見直しルールなどによって異なります。
金融庁も2026年、住宅価格や金利の上昇などを背景に、金融機関へ住宅ローンの金利変動リスクに関する説明の徹底を求めています。金融庁「住宅ローン利用者に対する金利変動リスク等に関する説明」
現在の金利だけでなく、2%、2.5%、3%になった場合も確認してください。
頭金を入れた前提になっていないか
「月々7万円台」と表示するために、多額の頭金を入れた計算になっている場合があります。
例えば総額3,500万円の家でも、頭金500万円を入れれば、借入額は3,000万円になります。
しかし、手元に500万円の現金がない人は同じ返済額になりません。
また、500万円の預金があっても、すべて頭金に使ってよいとは限りません。
建築後には、次の現金が必要です。
- 引っ越し
- 家具・家電
- 固定資産税
- 車検
- 教育費
- 病気や収入減少への備え
- 予定外の工事
住宅ローンを減らすために預金を使い切り、その後に高金利の自動車ローンやカードローンを借りれば、家計全体では不利になる可能性があります。
頭金を先に決めるのではなく、建築後に残す現金を先に決めてください。
太陽光の売電を返済へ入れ過ぎない
太陽光発電による電気代削減や売電収入を、住宅ローン返済へ組み込む説明もあります。
太陽光発電は、電気代を抑える有効な設備です。
しかし、発電量や売電収入は一定ではありません。
- 天候
- 屋根の向き
- 周辺建物の影
- パネルの経年変化
- パワーコンディショナーの交換
- 売電単価
- 電気の使用時間
によって変わります。
売電収入がなければ住宅ローンを返せない計画は危険です。
太陽光による削減効果は、返済余力、修繕積立、繰上返済の原資として考え、最初から使い切らない方が安全です。
本当に比較すべき8つの数字
月々返済額を提示されたら、次の数字を一緒に出してもらってください。
- 土地・建物・付帯工事・外構・諸費用を含む総額
- 頭金
- 住宅ローン借入額
- 適用金利と金利タイプ
- 返済期間
- 総返済額と総利息
- 完済年齢
- 定年時点のローン残高
さらに、次の3つのパターンを比較します。
- 現在の金利が続いた場合
- 金利が段階的に上昇した場合
- 収入が減少した場合
住宅金融支援機構のシミュレーションでも、毎月の家計収支や将来のライフイベントを踏まえたキャッシュフローを試算できます。住宅金融支援機構「住宅ローンシミュレーション」
住宅ローンは、今月払えるかではなく、教育費、定年、老後まで含めて確認するものです。
安全な返済額の考え方
私は、住宅ローンだけなら手取り収入の20%前後、固定資産税、保険、修繕積立まで含めた住居費全体でも25%前後に収まるかを一つの目安として確認します。
例えば手取り月収35万円の場合です。
| 項目 | 目安例 |
|---|---|
| 住宅ローン20% | 約7万円 |
| 住居費全体25% | 約8万7,500円 |
住宅ローンが7万円なら、固定資産税、保険、修繕積立を含めても約8万7,500円以内に収められるかを確認します。
ただし、これはすべての家庭に当てはまる絶対的な基準ではありません。
- 子どもの人数
- 車の台数
- 現在の年齢
- 貯蓄額
- 教育方針
- 共働きの継続性
- 親の介護
- 老後の収入
によって安全な返済額は変わります。
年収だけではなく、実際の手取りと生活費から判断してください。
危険な月額説明
次のような説明には注意してください。
- 金利は今後も上がらないと思います
- 50年ローンでも繰上返済すれば大丈夫です
- ボーナス払いを使えば月々は安くなります
- 太陽光の売電で実質負担は下がります
- 夫婦の収入を合算すれば問題ありません
- 退職金で残債を返せば大丈夫です
- 住宅ローンは銀行が通すので安心です
- 今の家賃と同じだから払えます
これらは、将来の収入、金利、売電、退職金が予定どおりになることを前提としています。
住宅ローンは、予定どおりにいかなかったときでも家計を維持できるように組むべきです。
俺流結論
住宅営業が月々返済額で話す理由は、3,000万円、4,000万円という総額より、月々7万円、8万円と伝えた方が家を安く感じてもらえるからです。
しかし、月額は計算条件によって小さくできます。
- 返済期間を50年へ延ばす
- ボーナス払いを設定する
- 多額の頭金を入れる
- 低い変動金利で計算する
- 土地や諸費用を除外する
- 太陽光の売電収入を差し引く
これらを使えば、見た目の月額は下がります。
しかし、借入額、総返済額、完済年齢は消えません。
私は、月々返済額を見るなとは言いません。
家計を守るために必要な数字です。
ただし、本当に見るべきなのは、
「今月払えるか」ではなく、
「教育費を守り、定年後も生活を続けながら、最後まで無理なく返せるか」
です。
予算を超えたら、返済期間を延ばして数字を小さく見せるのではなく、土地代、床面積、建物の形、装飾、不要なオプションを見直してください。
住宅会社は家が完成すれば代金を受け取ります。
しかし、お客様の返済は、その後何十年も続きます。
月々いくらではなく、総額、総利息、完済年齢まで確認してから契約してください。
関連Q&A










