預金4,500万円あるから現金で建てる、ではありません。
桃とぶどうが不作でも困らない金額を先に残します。
山梨県で桃・ぶどうを栽培する62歳の農業世帯を想定し、総額3,100万円の建て替えを検討しました。
この事例のおすすめ標準案は、自己資金2,100万円、住宅ローン1,000万円です。建築後の現金を2,400万円残し、月約9.0万円を10年間返済します。夫72歳で完済する計画です。
結論を先にまとめます。
| おすすめ標準案 | 暫定計算 |
|---|---|
| 建て替え総額 | 3,100万円 |
| 自己資金 | 2,100万円 |
| 住宅ローン | 1,000万円 |
| 金利・返済期間 | 変動1.5%・10年 |
| 毎月返済額 | 約9.0万円 |
| 建築後の現金 | 2,400万円 |
| 完済年齢 | 夫72歳 |
| 90歳時点の予想残高 | 約7,843万円 |
| 70歳以降の年7%増収を見込まない場合 | 約5,158万円 |
現金一括より90歳時点の残高は約78万円少なくなります。 しかし、その約78万円は10年間のローン利息です。約78万円の利息で、建築直後に自由に使える現金を1,000万円多く確保する考え方です。
これは住宅ローンの審査承認を保証するものではありません。農業所得の確認、年金見込額、農業支出、金融機関の審査条件を確認したうえで最終判断します。
この農業世帯の条件
| 項目 | モデル条件 |
| 家族 | 夫62歳、妻48歳、後継者あり |
| 農業 | 桃・ぶどう、夫婦で営農 |
| 平年の農業実収入 | 年380万円 |
| 不作年の農業実収入 | 年290万円、4年に1度 |
| 好調年の農業実収入 | 年580万円 |
| 妻のパート収入 | 年110万円 |
| 営農予定 | 夫80歳まで、妻70歳まで |
| 現金・預金 | 4,500万円 |
| 借入 | なし |
| 年金 | 夫婦それぞれ月7万円 |
| 建て替え | 26坪・3LDK・総額3,100万円 |
| 守る性能 | 断熱等級6・耐震等級3 |
| 現在の生活費 | 月17万円 |
| 農業終了後の生活費 | 月19万円 |
| 固定資産税 | 年14万円 |
| 8年後の乗用車 | 250万円 |
| 住宅修繕 | 10年ごとに110万円 |
「平年380万円」を農業経費控除後の実収入として計算しました。入力欄にあった「320万円は農業経費を引いた後か」という記載は数字が一致しないため、正式相談では確認が必要です。
なぜ、農業世帯は預金額だけで判断できないのか
会社員世帯は毎月の給与を基準に返済計画を立てやすい一方、果樹農家の収入は天候、収量、品質、販売価格の影響を受けます。さらに、住宅費とは別に、改植、農業倉庫、果樹棚、防除・灌水設備、車両などの支出が発生する可能性があります。
そのため、農業世帯の建て替えでは次の順番が大切です。
- 不作年でも生活と農業を続けられる現金を確保する
- 未確認の農業支出を洗い出す
- その残りを自己資金として使う
- 住宅ローンの返済額を不作年の収入でも確認する
農林水産省の収入保険は、青色申告を行う農業者を対象に、自然災害や価格低下などによる収入減少を広く補償する制度です。ただし、加入条件、補償割合、保険料、積立金を確認する必要があります。農林水産省「農業経営の収入保険」
3つの建て替え案を比較
| 比較項目 | 希望優先案 | おすすめ標準案 | 安全重視案 |
| 建て替え総額 | 3,100万円 | 3,100万円 | 3,100万円 |
| 自己資金 | 3,100万円 | 2,100万円 | 1,600万円 |
| 住宅ローン | なし | 1,000万円 | 1,500万円 |
| 毎月返済額 | なし | 約9.0万円 | 約13.5万円 |
| 建築後の現金 | 1,400万円 | 2,400万円 | 2,900万円 |
| 支払利息合計 | 約0万円 | 約78万円 | 約116万円 |
| 完済年齢 | 建築時 | 夫72歳 | 夫72歳 |
| 90歳時点の予想残高 | 約7,920万円 | 約7,843万円 | 約7,804万円 |
希望優先案:全額現金で建てる
住宅ローンがないため、返済の心理的負担はありません。90歳時点の予想残高も3案の中で最も多くなります。
一方、建築直後の現金は4,500万円から1,400万円まで減ります。住宅完成直後に不作、車の買い替え、農業設備の修繕が重なると、資金の自由度が下がります。
おすすめ標準案:現金2,400万円を残す
自己資金を2,100万円に抑え、1,000万円を住宅ローンで補います。月約9.0万円の返済は、平年だけでなく4年に1度の不作を入れて確認しています。
全額現金との差は、最終的には約78万円です。しかし、建築直後に残る現金は1,000万円増えます。農業世帯では、この手元資金が生活費だけでなく営農継続の選択肢を守ります。
安全重視案:現金2,900万円を残す
自己資金1,600万円、住宅ローン1,500万円とし、建築直後の現金を2,900万円確保します。ただし月返済は約13.5万円です。
現金は厚く残せますが、不作年にも返済額は変わりません。今回の条件では、おすすめ標準案の月約9.0万円のほうが、資金保全と返済負担のバランスを取りやすいと判断しました。
不作年はどのように計算したか
本試算では、農業実収入を次のように設定しました。
- 平年:年380万円
- 不作年:年290万円
- 不作の頻度:4年に1度
- 好調年:年580万円。ただし安全性の根拠には使わない
- 夫70歳以降:木の生育による年7%の増収をモデル上反映
- 夫80歳で営農終了
- 夫80歳から妻70歳まで:夫婦営農時の50%で暫定計算
- 妻70歳以降:農業収入なし
- 農地の賃貸収入・売却収入・後継者からの収入:計上なし
年7%の増収が実現しなかったら
果樹の成長による増収は期待できますが、将来を保証するものではありません。そこで、70歳以降の年7%増収をまったく見込まない場合も確認しました。
おすすめ標準案の90歳時点の予想残高は、約7,843万円から約5,158万円になります。増収を外しても資産は残る試算ですが、改植費、農業倉庫修繕、保険料が未確認であるため、余裕額をそのまま使えるとは判断しません。
毎年が不作水準だったら
参考として、農業実収入が毎年不作年の水準になった場合も確認しました。年7%増収の仮定を残した計算では、おすすめ標準案の90歳時点は約5,926万円です。
この数字も「必ず残る金額」ではありません。気候、販売単価、営農期間、税・社会保険、設備投資により結果は変わります。複数の悪化条件が同時に起きるケースは、正式資料を確認して再計算します。
現金2,400万円を残す理由
現時点で把握できている将来支出だけでも、次があります。
| 備える項目 | 金額 |
| 平年と不作年の収入差2年分 | 180万円 |
| 8年後の乗用車 | 250万円 |
| 住宅修繕1回分 | 110万円 |
| 医療・介護予備費 | 300万円 |
| 合計 | 840万円 |
さらに、改植費、農業倉庫修繕、農業保険、保険・その他の固定費、旅行・趣味費が未確認です。果樹の改植には苗木代だけでなく、未収益期間の管理や収入減少も関係します。農林水産省も、改植・新植と未収益期間の幼木管理を支援対象としており、果樹経営では改植を独立した資金項目として確認する必要があります。関東農政局「果樹対策事業」
したがって、2,400万円は「余ったお金」ではなく、不作と営農継続を支える資金として考えます。
退農後の生活は大丈夫か
夫80歳時点で妻は66歳です。本試算では、妻が70歳になる夫84歳まで農業を続け、その後は農業収入をゼロにしています。生活費は現在の月17万円から、農業終了後は月19万円へ変更し、年1.2%の物価上昇も反映しました。
年金は夫婦とも65歳から月7万円として暫定計算しています。夫は現在62歳のため3年後、妻は夫79歳時点で受給開始です。受給開始年齢が未入力だったため、65歳開始と仮定しました。
正式な年金額は「ねんきんネット」で、受給開始年齢や今後の加入条件を変えて試算できます。日本年金機構「ねんきんネットによる年金見込額試算」
建て替え前に確認したい資料
- 直近4年分の確定申告書・青色申告決算書
- JA等の販売明細と農業経費の内訳
- 平年、不作年、好調年の実収入
- 夫婦それぞれの年金見込額
- 預金4,500万円の残高証明
- 建物、解体、外構、仮住まいを含む見積書
- 改植、農業倉庫、農業保険の将来計画
- 金融機関の住宅ローン事前審査結果
金融庁のライフプランシミュレーターも、試算結果は将来を保証するものではなく、目安として使うよう案内しています。本記事の試算も同様に、正式資料の確認前のモデル計算です。金融庁「ライフプランシミュレーター」
よくある質問
Q1. 預金4,500万円あれば、現金一括が一番安全ではありませんか?
利息だけを比べれば現金一括が有利です。しかし建築直後の現金は1,400万円になります。農業収入が天候で変動し、未確認の営農支出があるため、現金を2,400万円残す案を中心にしました。
Q2. 62歳でも住宅ローンを利用できますか?
年齢だけでは決まりません。農業所得、申告内容、返済比率、完済年齢、担保評価、金融機関の基準などで審査されます。本事例は借入可能額ではなく、老後資金を残しながら返せる額を試算したもので、融資承認を保証しません。
Q3. 不作年でも月約9万円を返せますか?
4年に1度、農業実収入が380万円から290万円へ下がる条件を入れて資産推移を確認しました。ただし、複数年不作、農業設備の故障、価格低下が重なる場合は再計算が必要です。
Q4. 好調年の580万円を計画に入れないのはなぜですか?
好調年は返済や貯蓄を進める上振れ要因として扱います。好調年を前提に住宅ローンを増やすと、不作年の負担が重くなるため、基本計画の安全性には使いません。
Q5. 後継者がいるなら、農地や収入を資産として見込めませんか?
後継者がいても、承継時期、贈与・相続、営農形態、親世帯への支払いは未確定です。そのため本試算では、農地売却、賃貸、後継者からの収入を計上していません。
Q6. 断熱等級6・耐震等級3は削るべきですか?
将来変更しにくい断熱・耐震性能は原則として守ります。総額調整が必要な場合は、建物面積、間取りの複雑さ、設備、造作、外構の範囲や施工時期から検討します。
まとめ
この事例では、26坪・3LDK、断熱等級6、耐震等級3、総額3,100万円という希望を維持できます。
おすすめ標準案は、自己資金2,100万円・住宅ローン1,000万円です。建築後に現金2,400万円を残し、月約9.0万円を10年間返済します。4年に1度の不作を入れた90歳時点の予想残高は約7,843万円、年7%増収を外した場合は約5,158万円です。
大切なのは、「住宅ローンが組めるか」だけではありません。不作でも農業と生活を続けられる現金を、建築後にいくら残すかです。
不作でも困らない現金を、いくら残すか確認しましょう













